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3回目
「今度はまた来るの早かったのう」
「『今度は』って何?そりゃ来るよ、僕は理想の異世界に行かなきゃならないのだから」
異世界の狭間の管理人は基本的に元の世界と転生先を結ぶ掛け橋としての役割でしかない。
基本、一人の人間と出会い、会話をするのは一度切りだ。
なのに宗親とはもう3度目の再会となる。
「わしの管理人人生でも同じ人間と3度再会するなんていつ以来かのう」
「過去にも僕みたいな人いたんだ?」
「そりゃ、この世界と世界をつなぐ狭間では時の概念もまた特別。悠久の時を過ごすこの場には、今まで色々な者が訪れた」
「その割には『なんと』って何回も言って驚いていた様な」
「ほっほっほ、初めてでは無いにしても珍しい者が現れれば驚きもしますわい」
「まあ、いいや。それよりえーっとナチュレだっけ?それとは別の異世界に転生するよ、他のも有るでしょ」
「もちろん、お主のいる世界も含めてこの世には、ありとあらゆる異世界や空間が存在するぞ」
「ちゃんと言ってよね、説明不足だよ」
「いや、最初に紹介したナチュレをお主がやたら気に入ったようじゃったし、そもそもお主が『僕は分かっているから説明しなくていい』『とにかく早く!』と言ったではないか」
「知らないな」
「お主勝手な奴よのう、友達おらんじゃろ?彼女も・・・まさか35歳にして童貞・・・」
「うるさいわ!それより本題に入るよ!転生する世界を変更する」
「ほう」
「前回、管理人さんが言った通りなら、僕は今から剣士や魔導士にはなれないんでしょ」
「まあ肉体ごとの転生ならそうじゃな」
「じゃあ僕の強みは科学者だ、異世界転生装置すら作れる僕の科学力を活かせる世界に転生する」
「それ、転生しなくても今の世界でいいんじゃないかの」
「どういう事だよ・・・・・・・」
「それに転生した世界でお主の今までの知識が活かせるとは限らんぞ、異世界転生装置はお主一人で作ったのではないだろう」
「甘いよ、管理人さんの言う通り僕は頼れる人なんて誰もいない。異世界転生装置は僕一人で作ったんだ」
宗親はスマホを取り出すと、異世界転生装置を管理人に見せた。
「これは知っておるぞ、フェラーリとかいう車ではないか」
「そうだよ、この車は公道を走るには性能を持て余す金持ちのステータスシンボルみたいなものだ。その余りある性能を異世界転生装置のパワーに変換して作ったのさ。おかげで製作期間は何十年と縮まった」
「凄い発想じゃの」
「まあね」
「で、お主はフェラーリを作れるのかい」
「作れる訳ないじゃん」
「ではお主一人で作っておらんではないか」
「屁理屈だよ」
「屁理屈かの?お主に科学の知識を与えた者、幼少のお主を育てた者、研究を支えた者、お金を出せば商品を出してくれた者」
「やっぱり屁理屈じゃないか!その者たちは僕の為に何かしてくれた訳じゃない!自分の為にしているだけじゃないか」
「そうじゃよ、[自分の利益の為にしている事が他者の利益にもなる事]を[仕事]といい、それによって社会は成り立っている。一人で生きている者など地球にはおらん。たとえ無人島で一人で生きていたとしてもな」
「ご高説ありがとうございます。だ・け・ど!僕にそんな話をしても無駄だよ」
「どの世界に転生したとしても、お主はその社会から外れて本当の意味で一人っきりで生活するんじゃぞ。お主には[本当の意味での一人]を知っておいて欲しかったんじゃ」
「・・・・・・・帰る」
「もう、来るでないぞ」
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