土を蹴る。本心の前で

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 自分にできないことができる人を好きになった。幼稚園の初恋は焼却炉にためらいなく頭を突っ込める子を好きになったし、小学生の頃は縄跳びで三重跳びをひょいひょいできる人を好きになった。    高校二年生の私は近所の学習塾に通っていた。受験の為、というよりも好奇心の方が強かった。新しい人に出会い交友関係を広げ、色んな人の話を聞いてみたかった。    私はある日、塾に通う男の子に交際を申し込んだ。別の高校に通う同い年の男の子だった。特に仲が良かったわけではない。何度か事務的に話したことがある程度の男の子だった。今度の彼氏はエスペラント語を習っている人だった。    女友達はみな「彼と付き合うのは止めておけ」と言った。教室でその話題になると、彼を知らない者までなぜか同調した。伝手を頼り高校での彼の評判まで調べてくれた人もいた。ロジハラとかストーキングとか、彼女たちは好き勝手に私に忠告した。いくら彼の悪口を言われても私の心は特に動かなかった。最後絶対DVされるよ! と言われてその自信に少し驚いただけだ。    もう彼に告白してしまったのだ。あなたの評判が悪いのでやっぱ付き合うのヤメ! なんて私には言えない。会って断ればいいだけじゃないか、と思った。私は彼とデートをすることにした。    デートの出来は思ったより悪くなかった。悪くなかった、なんて言い方をすると評論家みたいで偉そうだけど、頭からお尻まで彼が決めたスケジュールに則って動いたんだから、多少のことは許してほしい。  彼はずっと手書きのメモ帳を見ながら、博物館だの動物園だのを私に案内してくれた。メモには博物館本体の歴史とか、ニホンザルやソデグロバトの生態などが書かれていた。彼が話す内容はすべて檻の横にある立て看板にそのまま書いてあった。彼はメモを音読して私に説明した。私は立て看板の同じ部分を読んでやろうかと思った。私は動物園の鳥がなぜ逃げないのか質問したが、彼は何も答えなかった。   手元で大きく広がる彼のスケジュール帳の中身は、私から丸見えだった。私たちは文字通り分刻みで動いた。普通列車に乗るために、ホームに上がる時間まで彼が時計を見て動いているのを見て、もしかして秒刻みなのかもしれない、と思った。  デートの間、私達はたくさんの話をした。たくさん話したのにほとんど盛り上がらなかった。二人で会った七時間のうち、主に私が質問をし、彼が答えた。彼の答えはいつも外国のビスケットみたいに淡泊だった。それでも私は、彼が悪い人には思えなかった。  他に習い事はしているの?と私は聞いた。エスペラント語の他に、と付け加えた。 「チョークアート」と彼は答えた。私の胸は簡単に締め付けられた。 マジック教室にも通ってると彼はサラりと言った。なぜか眼鏡のフレームを指でつまみながら言った。  彼はデートの間に時計をよく見た。「この後、予定あるの?」と聞いても、ない、と答えた。おそらく彼の癖なのだろう。 「カッコイイ時計ね」 「防水なんだ」と彼は淡々と答えた。 私はデザインのことを話したかったのに、彼は長々と機能のことばかりを話した。 「もし川で溺れている人がいたら、すぐに助けてあげられるわね?」と半ば冗談で聞いた。彼はしばらく何も言わず黙り込んだ。何かを真剣に考えていた。 「二人で海に放り出されたらどうする? タイタニックみたいに」と私は聞いた。自分でもバカみたいな質問だと思った。よほど話題がなかったのだ。 「僕は一生、船には乗らない」と彼は言った。何世代も前の先祖が、冬の日本海沖で海難事故に遭い、その事故で一族の三分の一を失った、とのことだった。思わず笑いそうになった私は、うつむいて本当に笑っていいのか考えた。考えた末に笑うのを止めた。今までのデートで一番スリリングな瞬間だった。彼とのデートにはそれがあった。  楽しいデートだったか、と言われれば大いに疑問が残ったし、物足りない部分は多々あった。それでも私は彼を嫌いにはならなかったし、むしろ好意を抱いた。  加奈は「だから言ったじゃん。告ってすぐ振る方がひどくね」と言って笑った。彼女は仲の良い友人の一人だ。ドーナツショップでオールドファッション2つを食べ、熱いほうじ茶を飲んでいた。    私が彼を振ったわけではなかった。彼が「もう会わない」と一方的に言ってきたのだ。正直に告げると加奈は「あいつぶっ飛ばす」と言った。私は思わず笑った。 「笑ってる場合じゃないでしょ。仕返ししないの? し・か・え・し」 彼女はオールドファッションを前歯でかじりながら言った。1つしか食べないくせに、なんでいつも2つ頼むんだろう? 「報復行為は行いません」と私はマグカップを握りながら答えた。 「ほーふく」と彼女は言った。語感が気に入ったみたいだ。 「気持ちは嬉しいけどね。ほーふくなんて簡単に言わないでください。そんな怖い顔してるとすぐ老けるよ」 「マジ?」と言って加奈は窓に映った顔を見ながら、指で眉間をグニグニ押した。 彼女はスマホを見ながら言った。 「弱い人は復讐する。強い人は許す。賢い人は無視する。えー無理。そんな振られ方したらアタシ絶対ほーふくする」 「へぇ。誰の言葉?」 「アインシュタイン」 「良い言葉だね」 「でもこのおっさんイケメンじゃなくね?」  そのあと私は加奈にアインシュタインの功績を説明する羽目になった。知識も乏しく記憶も曖昧な私の説明を、加奈は最後まで真剣に聞いた。彼の理論がGPSに応用されていると知った彼女は、すぐにアインシュタインのファンになった。 彼女は帰るまでの間に「アインシュタインぱねぇ」と二回言った。「嫁ぎたい」とも言った。 私は全て聞き流した。  加奈は別れ際に「いずみの次の彼氏は私が探してあげる」と言った。面白そうだったので「お願い」と頼んだ。  「新しい彼氏探してあげる」と言った加奈は翌日の休み時間から動いた。彼女が採用した作戦は「交際に値する男子に、好みの肌の色を聞く」というものだった。確かに私は子供の頃から目立つ色黒ではあったけど、この作戦の有効性には大きく疑問が残った。確かに私は彼女に対し、ファミレスで「色白の女の子好きを公言する人は星の数ほどいるのに、色黒は皆無であることに対する私なりの理論」を唱えたばかりだったので、サンプルとして結果に多少の興味はあった。言いたいことはいくつかあったが、私は彼女に作戦の継続を指示した。 「ラジャー」と加奈は親指を立てて答えた。私はその姿を見て、成功でも失敗でもどちらでもいいと思った。その日はトイレも昼食も休み時間も別々だった。 放課後、加奈は明らかにリサーチに飽きていた。 「結局、誰の答えが聞きたいん? そいつにピンポイントで聞きに行くわ」 おいおい、いくら友人でも急にそんなこと言えるわけないでしょう、と私は思った。 「そんな人気なかった? 色黒女子」 「いや、そんなことない。みんな割と好きなのよ、色黒。だけど白い女子の方が好きなのよ、結局ね。結論としてはそんな感じ」 ふぅん、と私は鼻から声を出して答えた。お礼を言おうとしたら、加奈が話し始めた。 「だからいずみのことどう思う? って直球で聞いたの」 そこで初めて、私の理論を基に暴走を始めた不届き者がいると知った。 アインシュタインでもそんな使いかたされると思わなかったはずだ。  彼女は言い訳をした。全員まんざらでもなさそうだったとか、色黒女子キテるらしいと雑誌で言ってたとか、玉虫色の情報を流し続けた。しまいには「あたしも彼氏欲しいっつーの!」と教室の隅で叫んだ。運よく近くの窓が開いていたので、彼女の叫び声は空が捨ててくれた。 「もうお手上げだ」と言って加奈がうなだれた。私は結局、笑いを堪えるのに必死になった。 半日も持たずプロジェクトは暗礁に乗り上げた。  西島に声をかけられて、彼と私は二人で帰り道を歩いた。幼稚園時代からの幼馴染で私の初恋の相手だった。クラスの違う彼は、授業が終わるとすぐに私を誘いに来た。彼と話すのは久しぶりだった。私達は行き先を確認することもなく歩き始めた。互いの家など、とうに知っているのだ。彼とこの道を歩くのは五年ぶりだった。 私の脳内は気づかぬうちにあの頃の自分にトリップしていて、横に西島がいるだけで見知った道に違和感を感じた。 「でかくなったよな、おまえ」と彼は言った。私も同じことを考えていた。 「そりゃなるでしょ。成長期だからさ」 いきなり会話が続かなくなった。しゃべれや! と私は思った。どう考えてもお前の話す番じゃろがい、と思ったけど、なぜか声には出せなかった。 「今日来たよ、加奈ちゃん。ウチの教室まで。彼氏欲しいんだって?」 違う! という声が途中で止まった。ろくに話さず五年も経つと、上手く否定もできなくなるのか。 「昔と変わらずあけっぴろげだよな、お前って。聞いたことねぇよ。私と付き合いませんか、って友達に聞いて回らせてる奴」 「違う!」今度は上手く声が出た。代わりに話そうと思っていた言葉を全て忘れた。 「誰に対してもそんな感じなのか?」と彼は私に聞いた。 「どういう意味?」 「俺以外にもそんな感じなのか?って聞いてんの」 「そりゃそうでしょう」と私は答えた。 西島が速足になった。ボクシング部で鍛えている彼の体は、制服の上からもとても締まって見えた。 「ねぇ、なんて答えたの?色白と色黒」 色白、と彼は言った。私はショックを受けた自分に気づいた。 「色黒って答えたら、お前が好きだって勘違いされるだろ」 「私そんなに目立ってないよ」 目立ってるよ、と彼は言った。私は嬉しくなって西島に得意げな顔を向けた。 彼は「俺だってモテるんだぜ」と言った。私はイジワルをしたくなった。 「もみあげのとこだけ刈り上げてるの変だよ」 「流行ってるんだぜ、これ」 「あたしの中では流行ってないもん」と反論した。西島のくせに色気づきおって。 「練習、大変?」と私は聞いた。なぜか部活をしていない自分に負い目を感じた。 彼は頷いて「まあな」と答えた。「ボクシング始めてもう四年になるんだな」と付け加えた。  西島がボクシングを始めた動機を私は知っていた。五年前に弟の雄介君が車に轢かれて事故に遭ったからだ。  私達はよく三人で西島の家の前で遊んだ。西島と私は12歳で、雄介君は7歳だった。 私と西島は雄介君と遊ぶのを楽しんだ。ライダーごっこをしたり、ハゼ釣りに行ったり、階段の多い神社にわざわざ登ったりした。雲が一斉にストライキを起こしたような晴れた日に、三人でコンクリートに寝そべって空を眺めたこともあった。雄介君はとても優しい子だった。優しい子だったので、西島と私は雄介君をたっぷりと甘やかした。彼らの祖父に「お前ら夫婦みたいだな」と言われるくらい甘やかした。西島には遠慮なく甘えて、私には遠慮しながら甘えた。  雄介君は私と西島の間を走り抜けて事故に遭った。西島の家の前でおままごとをしていた。雄介君は何かの拍子に私たちの間をスルリと抜けて走り始めた。私たちは二人とも手を伸ばした。西島の指は雄介君のフランネルのシャツに触れたが止めることはできなかった。私の指は少しも届かなかった。  当然のことながら、私たちの起こした事故は、その後の両家の関係に影を落とした。雄介君はいくつもの骨を折り、リハビリの末にびっこになった。私の両親は事故を知り、すぐに西島の家を訪れ、土下座して詫びた。交換したばかりの黄金色の畳に額を丸ごと擦りつけて詫びた。私は両親の見たことのない姿に怯え、頭を下げることができずただ泣き喚いた。それから私は西島の家に行けなくなり、彼と話す機会も減った。雄介君の母親は熱心な看病の末、心を病んで実家に戻った。彼が一人で歩けるようになったのと同時期だったと噂で聞いた。母親が出て行った後、西島はボクシングを始めた。 「おまえってさ、あの時俺のこと好きだったの?」と西島が私に聞いた。 うん、と私は正直に答えた。答えた後で当たり前じゃん、と思った。 「俺はさ、そんなことなかったんだよね」と彼は言った。 「おまえ、昔から俺にだけ厳しかったじゃん? なんか当時はそれが嫌でさ。今ならそんなことないんだけど」 駄菓子屋を超えてすぐの踏切で遮断機の音が鳴った。急げば渡れたのに、私たちは渡らなかった。 「ねぇ、腹パンしていい? 鍛えてるんでしょ」と私は言った。 いいよ、と彼は言って両手を自分の後頭部に当て、私が殴り易い体勢をとった。 私は彼の腹を何度も殴った。筋肉の薄そうなところを狙い、電車が通り過ぎるのも構わずに殴り続けた。 テレビで見たボクサーを真似て、ボディーブローを入れたところで唇を奪われた。キスされたのにチューされた、と思った。電車の通り過ぎる音が耳に響いた。 「お前、今からウチに来いよ」と彼が言った。何年も来てないだろう、と耳の痛いことをあっさり言った。 私はバツが悪くなり、西島を見た。彼も私と同じ顔をしていた。二人一緒なら行けるかもな、と思った。返事はしなかったが、私達は彼の家の方角へと曲がった。  西島の家の前に来て、私はここに来たことを後悔した。脚は思うように前に動かず、手には臭いそうな汗をかいていた。キスをしてから西島は一言も話さなかった。なんて勝手な奴だ、と私は思った。  彼は鍵を開けて中に入った。何度も見た玄関は昔より小さく見えた。框も少し足を上げただけで登ることができた。私を茶の間に案内しながら、父さんはまだ仕事から帰っていないんだ、と西島が教えてくれた。雄介も林間学校で今日はいない、とついでみたいに言った。私は、ほっとした自分に気づいて心底自分が嫌になった。 「雄介は楽しくやってるんだぜ」と彼は言った。習い事も部活もちゃんとやってるしな、と誇らしげに言った。 うん、と答えて茶の間の空気を吸った。よく知った懐かしい匂いがした。私の両親が額をこすりつけた畳の色だけはあの頃と変わっていた。  勢いよく水の流れる音がして、西島のじいちゃんが茶の間に現れた。 ご無沙汰してます。と頭を下げながら私は言った。生まれて初めて言ったのにスラスラ言えて驚いた。彼は「よく来たね」と言って、木でできた固い座椅子に腰を下ろしてテレビをつけた。五年前より髪が薄くなり、顔が大きくなったように見えた。彼は一番分厚い赤い座布団を私の足元に置いてくれた。  台所に行った西島が、急須と湯飲みを持って現れた。ちゃぶ台の横にあったポットから急須に熱湯を注ぎ、少し待ってからそれぞれの湯飲みに注いだ。じいちゃんの湯飲みにはお相撲さんの名前がびっしり書いてあった。西島の湯飲みには魚の漢字がところ狭しと書いてあって、読める漢字が増えていることに私は笑った。私の湯飲みは赤茶色でザラザラしていて、少しも光沢のない一番小ぶりのものだった。 五年前と少しも変わっていなくて、私は少し泣きそうになった。  ドラマの再放送がコマーシャルになったところで、じいちゃんは孫に夕食の買い出しを頼んだ。「食べていくじゃろ?」と聞かれ、はいと答えた。「じゃ、行くか」と西島が私に声をかけると、じいちゃんは「一人で行ってこい」と言った。「はいよ」と言って西島はあっさりと家を出て行った。 「元気だったか?」とじいちゃんは聞いた。 「はい」と私は答えた。家に入ってから何もしゃべっていない気がした。 「なんで来んくなった?」とじいちゃんは私の眼を見て聞いた。 私は下を向いて黙り込んだ。急に鼻で息が吸えなくなった。 「いずみちゃんは雄介が不幸だと思うか?」 いいえ、と私は嘘をついた。はいなんて言えるわけがなかった。頭が混乱して喉が渇いた。冷たい水を飲みたかった。  じいちゃんは私に言った。 「ワシはあいつがびっこ引いとることで小学校の校長さんに感謝された。あなたのお孫さんのおかげでクラスがまとまるんです、ってな。そりゃあ誇らしかったさ。本人にもしっかり伝えてある。お前は自慢の孫だ、ってな。人には役割があるのさ、それぞれにな。光り方も違うに決まっちょる。  でもあいつらにはそれがわからん。想像もつかんのさ。びっこ引いた子が感謝されるなんてな。目が曇っちょるのさ。あんな眼で見てもわからん、ホントのことは。 ワシらの人生にはいろんなことが起こる。いずみちゃんの人生にもな。 そいつに起こった出来事に可哀そう、って思うのは構わん。助けたり話を聞いてやりゃいい。  だけどな、そいつ自身を可哀そう、と思い始めると話は途端に厄介になる。いまウチの家にはそんな奴しかおらん。いずみちゃんも含めてな。ワシはそれを心配しちょる」 怒られていると思ったが、そうではないと途中で気づいた。おじいちゃんは悲しそうな顔をしていた。 「じいちゃんが教えてあげてよ」と私は言った。 「ワシからは何も話さん。奴らに言っても無駄じゃからな。これから先もずっと何も言わん。人はな、同じものを見ていても、見る人によって全く別なものを切り取ってしまう。同情なんてクソくらえじゃ。いま雄介が心の底から笑えるのはワシの前だけじゃ」 じいちゃんのツバが沢山ちゃぶ台に乗った。彼はそれをポットの上にあった布巾で丁寧に拭いた。 「私にできることはありますか?」 「逆に聞こう。いずみちゃんは雄介に何をしてやりたいんじゃ?」 「何でも」と口に出した後で、私は声を出せなくなった。自分の吐いた言葉が薄っぺらくて舌がヌルヌルして気分が悪くなった。 「いずみちゃんは優しすぎる。そりゃ美徳だがね。優しさなんて常に手に持って歩くようなもんじゃない。そんなことしてたら、あちこちすぐに傷ついて自分が使いもんにならなくなっちまう。そんなのは心の引き出しのどっかに入れときゃいいんだ。ただしすぐに取り出せる場所にな」  じいちゃんはゆっくりと立ち上がり、席を離れた。じいちゃんは最後に「よろしくな」と言った。  一人になった茶の間はやけに広く感じて、私の全てを拒絶しているように感じた。 私はもうすぐ十八歳になる。たった今、私は看護師になることを決めた。いや、本当はとっくに決めていて、この家で思い出させてもらっただけだ。  私はこの家に関わっていくと決めた。五年も避けていたのに、なんて思わない。他人事なんてもう思わない。私にだって必ず役割があるのだ。  逃げ道もファーストキスも失った。それでも私は踏ん張って毎日できることを探して、いつかこの家の人たちに、私はあなた達のおかげで看護師になりました、と胸を張って話せるようにならないといけないのだ。  正座した脚の上にある握りこぶしを見つめた。私はさっそく、脚がしびれて立てなくなったことに気がついて笑った。
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