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「はい。代金はいらないから」
「……ありがとう」
水族館のチケットを差し出され、私は素直にそれを受け取った。
「はぐれないように」
そう言って私の右手を握ってくる。隙あらば触れようとしてくること、今日だけは目をつむろうと思う。
「この間はちゃんと見れなかったし」
そう言ってゆっくり進む璃月は、どこか楽しげで。「魚が好きなの?」と訊くと、彼は少し考えて私の耳に唇を寄せた。
「夕といる時間が好き、かな」
その答えに耳まで熱くなってしまったけど、悟られないように顔を背ける。
「照れてんの?」
「照れてない」
「じゃあこっち向けよ」
仕方なく振り向くと、璃月は目を見開いた。
「顔真っ赤だけど?」
「……ばか」
「ちょっとは意識してくれたんだ?」
そして、楽しげに笑い始めて私は驚きを隠せなかった。
これが素の璃月なんだ。
悲しい過去も苦しい現在も、今だけは忘れて……はしゃいでいる。
「オレのこと好きになってもいいよ」
冗談交じりの口調とは裏腹に、繋いだ手には力が込められた。
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