Scene17

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「はい。代金はいらないから」 「……ありがとう」  水族館のチケットを差し出され、私は素直にそれを受け取った。 「はぐれないように」  そう言って私の右手を握ってくる。隙あらば触れようとしてくること、今日だけは目をつむろうと思う。 「この間はちゃんと見れなかったし」  そう言ってゆっくり進む璃月は、どこか楽しげで。「魚が好きなの?」と訊くと、彼は少し考えて私の耳に唇を寄せた。 「夕といる時間が好き、かな」  その答えに耳まで熱くなってしまったけど、悟られないように顔を背ける。 「照れてんの?」 「照れてない」 「じゃあこっち向けよ」  仕方なく振り向くと、璃月は目を見開いた。 「顔真っ赤だけど?」 「……ばか」 「ちょっとは意識してくれたんだ?」  そして、楽しげに笑い始めて私は驚きを隠せなかった。  これが素の璃月なんだ。  悲しい過去も苦しい現在(いま)も、今だけは忘れて……はしゃいでいる。   「オレのこと好きになってもいいよ」  冗談交じりの口調とは裏腹に、繋いだ手には力が込められた。
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