Scene1

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 夜が明ける寸前。暁の光景が窓いっぱいに広がったとき、私は暁人に抱きしめられた。彼と見たあの優しい光を、生涯忘れることはないと思った。  あのとき辛い現実を受け入れられたのは、暁人がそばにいてくれたから……。  なんでドキドキが収まらないの?  暁人が触れた頬を撫でる。熱いのは、きっと気温差のせいだと自分をごまかす。  それまで、ただの幼なじみだったはずなのに。今さら「好き」になってしまったなんて、暁人を困らせてしまいそうでそんなこと口にできない。  でも、うまく隠せるかな……暁人は鈍そうに見えるけど、変なところで鋭いから。 「そろそろ行くわよ」  朝ご飯を食べて見るともなくテレビを見ていると母が私の肩に手を置いた。 「うん」  今日は12月25日、クリスマス。乾燥した外の冷気を吸い込むと胸が痛んだ。  父は女性を救助する際、部下を庇い倒れてきた柱の下敷きになったそうだ。  勇敢で快活な人だった。人助けを信条として、私たち家族も大切にしてくれた。  父はとても善良な人だったのに、どうして?  疑問は幾度となく繰り返す。それで父が帰ってくるわけじゃないけど……何か理由を探さないと悔しくてどうにかなってしまいそうだった。 「寒いわね」  母はそう言うけど、墓前に花を供えるその手が震えているのは寒さのせいだけじゃない。丁寧に花を整え続けるのは、きっと泣くのを我慢しているから。
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