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「話す勇気をもらいに来た」
背筋を伸ばしてこちらに向き直る璃月。私は中途半端な笑みを浮かべたまま彼を見つめた。
「大事な話だから、聞いて」
「う、うん……」
改まって頭を下げられ、戸惑いながら返事をする。今日の本来の目的だったことを思い出して私も姿勢を正した。
「手紙に書けなかったことを話すよ」
そう言って璃月はポツリポツリと話し出した。
両親を事故で亡くしたのは、瑠璃さんが17歳、璃月が9歳のとき。
ふたりで貯めたお小遣いで両親を旅行に招待したこと。その途中、高速の玉突き事故に巻き込まれたこと。
瑠璃さんは大学進学を諦め、デパートへ就職したこと。遺族年金や貯え、叔母様の援助で生活してきたこと。
ずっと誰かに話したかったのかもしれない。心の内を言葉で紡ぐたび、重荷を下ろすかのように璃月の表情が穏やかになっていく。
まるで、璃月の代わりに泣いているかのように涙があふれた。彼は「ごめん」と言いながら私の涙をすくってくれた。
「泣かせるつもりじゃなかったんだ」
優しく目を細め、頬を撫でてくる。私は璃月に「自分を責めないで」と声を絞り出した。
「……ありがとう」
ハッとしたように開いた璃月の目から、涙が零れ落ちる。
「でも、オレは自分を許せないよ」
璃月の涙に触れると彼は私のその右手を握りしめた。
「浅山さんが命を落としたのは……オレのせいだから」
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