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「どういう、こと?」
涙と驚きで声が震えた。璃月は目を閉じて息を吸い込んだ。
「あのときは必死で……こんなことになるなんて思いもしなかった」
瞼を開き、彼はそのいきさつを語り始めた。
話は瑠璃さんと真司さんとの出会いまで遡る。
勤め先のデパートで出会った三つ年上の佐野真司さんは、右も左もわからない瑠璃さんを何かと助けてくれたそうだ。
ふたりが恋人同士になるまでそう時間はかからなかった。真司さんには身寄りがなく、璃月のことも本当の弟のように可愛がってくれた。けれど、幸せなときは長く続かなかった。
結婚式を1ヶ月後に控えた休日の夕刻。式の打ち合わせを終えたふたりが駅構内を歩いていると、突如として切りつけ騒ぎが起こった。
正義感の強い真司さんは犯人を追いかけ、もみ合いの最中階段から転落して……
「姉さんは現実を受け止めきれなかった」
璃月の唇がゆっくりと動くのを見つめることしかできない。
私は、瑠璃さんの気持ちを完全に理解してなかった。
いなくなったと思っていた恋人が再び現れたら……すがりたくなるのは当然なんだ。
「だから火事に巻き込まれたとき、そのまま後追いするんじゃないかって気が気じゃなかった」
「…………」
「そこまで追い詰められてるってわかってたのに……それでもオレは姉さんを救いたかった。どんなに辛くても生きててほしかった」
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