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海は凪いでいた。
降り注ぐ夕陽に目を細め、黄金に染まる海面を眺める。地上に星を散りばめたようにキラキラと輝く波頭。
美しい光景は心を感傷的にさせて困る。
「おまたせ」
遅れて水族館から出てきた璃月が私の横に並ぶ。
「キレイだな」
視線を感じて振り向くと、璃月は海ではなく私を見ていた。金色に染まる璃月は例えようもなく美しく、儚く見える。
「夕を好きになって良かった」
璃月の蹴り上げた砂がサラサラと舞い、優しい風の行方を見せてくれる。
「キスしてもいい?」
私の両手を取った彼が、真剣な表情で問い掛けてきた。どうやら冗談ではなさそうだ。
「ここ以外なら」
唇を指差すと璃月は苦笑を浮かべてうなずいた。
「目、閉じて」
前髪を掻き上げ、額に口づける。唇が下りてきて、鼻に、頬に、耳に……本当に唇にはしてこなかったけど、首筋にまでしてきたときはさすがに身を引いた。
「ばか」
体が熱い。彼の唇の感触を消すように首をさする。
「忘れないで」
璃月は私の左手を掴んでその動きを止めさせた。
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