Scene2

2/6
前へ
/148ページ
次へ
「誰かいる」 「どなたかしら……」  角を曲がると、自宅前に人がいることに気づいて私と母は顔を見合わせた。 「もしかして、高東(たかとう)さんじゃない?」 「えっ……」  母の言葉に息を呑む。歩を進めると制服姿の男の子と小柄な女性を確認できた。 「そっか……来てくれたんだ」 「ええ、そうね。待たせてしまったかしら?」  彼女は、おそらく高東瑠璃(るり)さんだ。  西洋人形のように整った顔立ちと、黒いワンピースが白い肌を際立たせ……その美しさに私は言葉を失った。  お父さんは、この人の命を救ったんだ。  姿を見るのは初めてで、喜びとも悲しみともつかない感情が湧き上がり拳を握りしめる。   「ごぶさたしています」  彼女の隣に佇む少年が私たちの前で深々と頭を下げた。彼は弟の高東璃月(りつき)といって、私たちとは面識があった。  あのときは通夜に一人でやってきたのだ。目が合うと、1年前も同じように首を垂れたことを鮮明に思い出した。 「その節は大変お世話になりました」  璃月くんは上半身を折ったまま動かなかった。母が見かねて「顔を上げて」と彼の肩に手を置くまで。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加