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「誰かいる」
「どなたかしら……」
角を曲がると、自宅前に人がいることに気づいて私と母は顔を見合わせた。
「もしかして、高東さんじゃない?」
「えっ……」
母の言葉に息を呑む。歩を進めると制服姿の男の子と小柄な女性を確認できた。
「そっか……来てくれたんだ」
「ええ、そうね。待たせてしまったかしら?」
彼女は、おそらく高東瑠璃さんだ。
西洋人形のように整った顔立ちと、黒いワンピースが白い肌を際立たせ……その美しさに私は言葉を失った。
お父さんは、この人の命を救ったんだ。
姿を見るのは初めてで、喜びとも悲しみともつかない感情が湧き上がり拳を握りしめる。
「ごぶさたしています」
彼女の隣に佇む少年が私たちの前で深々と頭を下げた。彼は弟の高東璃月といって、私たちとは面識があった。
あのときは通夜に一人でやってきたのだ。目が合うと、1年前も同じように首を垂れたことを鮮明に思い出した。
「その節は大変お世話になりました」
璃月くんは上半身を折ったまま動かなかった。母が見かねて「顔を上げて」と彼の肩に手を置くまで。
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