Scene20

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 逃げ出したいのに、水の中を歩いているように足が思うように動かない。こっちを見てる、あのお面が怖くてたまらないのに。  父の実家に飾ってあった、般若のお面に似てるから。  小学生のころ、怖がる私に「魔除けのつもりが孫除けになってしまったなあ」とおじいちゃんが自虐的な冗談を言っていたことを思い出す。  そっか、これは夢だ。  具合が悪くなるとあの面が夢に出てくるんだった。 「んん……」  自分の声で目が覚める。やっぱり夢だったけど、体に異常は感じられなかった。  問題は心の方かもしれない。  父を亡くしたあと、しばらくはこの夢に悩まされた。最近は見なくなっていたのに……久しぶりに嫌な夢を見た。  月明かりなのか、レースのカーテンがほんのりと光っている。 「…………」  自分の唇に手を当てる。璃月の冷えた頬の感触がまだ残っていて。会えなくなることが辛いと思う自分に驚いている。  心変わりしたわけじゃない。私は暁人が好き……それは変わりない。  起き上がってスマホを探す。ケースに付けたストラップがふたつ、はずみで揺れた。  今は暗くてよく見えないけど、ストラップの紐が水色のものが暁人から、ピンクの方が璃月からもらったものだ。  私にとってはどちらも大切で……比べることなんてできない。   「時々会うことはできないの?」  あまりに名残惜しげな顔をするから、別れ際に尋ねてみたけど。 「これ以上甘えるわけにいかないよ」  と、おどけた調子で返されてしまった。
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