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逃げ出したいのに、水の中を歩いているように足が思うように動かない。こっちを見てる、あのお面が怖くてたまらないのに。
父の実家に飾ってあった、般若のお面に似てるから。
小学生のころ、怖がる私に「魔除けのつもりが孫除けになってしまったなあ」とおじいちゃんが自虐的な冗談を言っていたことを思い出す。
そっか、これは夢だ。
具合が悪くなるとあの面が夢に出てくるんだった。
「んん……」
自分の声で目が覚める。やっぱり夢だったけど、体に異常は感じられなかった。
問題は心の方かもしれない。
父を亡くしたあと、しばらくはこの夢に悩まされた。最近は見なくなっていたのに……久しぶりに嫌な夢を見た。
月明かりなのか、レースのカーテンがほんのりと光っている。
「…………」
自分の唇に手を当てる。璃月の冷えた頬の感触がまだ残っていて。会えなくなることが辛いと思う自分に驚いている。
心変わりしたわけじゃない。私は暁人が好き……それは変わりない。
起き上がってスマホを探す。ケースに付けたストラップがふたつ、はずみで揺れた。
今は暗くてよく見えないけど、ストラップの紐が水色のものが暁人から、ピンクの方が璃月からもらったものだ。
私にとってはどちらも大切で……比べることなんてできない。
「時々会うことはできないの?」
あまりに名残惜しげな顔をするから、別れ際に尋ねてみたけど。
「これ以上甘えるわけにいかないよ」
と、おどけた調子で返されてしまった。
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