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瑠璃さんはまた不安定になっているそうだ。でも、人形のようだったあの頃とは違う。現実への覚醒は明日かもしれないし、10年後かもしれない。だけど、瑠璃さんが暁人と過ごした時間は無駄じゃなかったと思いたい。
「本当に大丈夫?」
「オレってそんなに頼りない?」
「そうじゃなくて」
「寂しいと思ってくれてるなら……嬉しいよ」
握手を求めるように手を差し出される。同意を込めて握り返すと璃月はそれこそ寂しげに笑んだ。
「夕に恋をして幸せだった」
しっかりと握りしめられた手は、やっぱり冷たかった。
「じゃあ、また明後日に」
別れの日は、もう決まっていた――
いつのまにか眠っていたらしい。朝日が差し込んで目が覚めた。
リビングに入るとすでに母の姿はなかった。キッチンに飾ってあるカレンダーを確認すると「夜勤」と書かれてある。夕方近くまで眠っているから、起こさないよう静かに行動する。
二人分のフレンチトーストを作り、冷蔵庫にあったポテトサラダを少しもらう。朝食を済ませた私は、何をするでもなくぼんやりとテレビの情報番組を眺めた。
「今日の関東地方は薄雲に覆われていますが、気温は平年を上回るでしょう」
曇り時々晴れ、降水確率30パーセント。なんだかはっきりとしない天気だ。
特に予定もないし、どうしようかとぼんやりと考えていたとき、スマホが鳴り出した。
『今日の予定は?』
可愛いスタンプとともに届いたのは、遥からのメッセージだった。
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