Scene20

3/5
前へ
/148ページ
次へ
 瑠璃さんはまた不安定になっているそうだ。でも、人形のようだったあの頃とは違う。現実への覚醒は明日かもしれないし、10年後かもしれない。だけど、瑠璃さんが暁人と過ごした時間は無駄じゃなかったと思いたい。 「本当に大丈夫?」 「オレってそんなに頼りない?」 「そうじゃなくて」 「寂しいと思ってくれてるなら……嬉しいよ」  握手を求めるように手を差し出される。同意を込めて握り返すと璃月はそれこそ寂しげに笑んだ。 「夕に恋をして幸せだった」  しっかりと握りしめられた手は、やっぱり冷たかった。 「じゃあ、また明後日に」  別れの日は、もう決まっていた――  いつのまにか眠っていたらしい。朝日が差し込んで目が覚めた。  リビングに入るとすでに母の姿はなかった。キッチンに飾ってあるカレンダーを確認すると「夜勤」と書かれてある。夕方近くまで眠っているから、起こさないよう静かに行動する。  二人分のフレンチトーストを作り、冷蔵庫にあったポテトサラダを少しもらう。朝食を済ませた私は、何をするでもなくぼんやりとテレビの情報番組を眺めた。 「今日の関東地方は薄雲に覆われていますが、気温は平年を上回るでしょう」  曇り時々晴れ、降水確率30パーセント。なんだかはっきりとしない天気だ。  特に予定もないし、どうしようかとぼんやりと考えていたとき、スマホが鳴り出した。 『今日の予定は?』  可愛いスタンプとともに届いたのは、遥からのメッセージだった。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加