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春の午後はポカポカと温かく、穏やかな風が遥の髪を優しく撫でている。
「昨日は楽しかった?」
川沿いの桜並木を歩いていたら尋ねられた。
璃月と出掛けたことを、きっと良くは思っていないだろう。
「遊びに行ったわけじゃないよ」
散り始めたソメイヨシノの花びらを浴びながら慎重に言葉を選ぶ。
「あたしだったら浮かれちゃうけどね」
「…………」
「夕ちゃんはいいな」
羨望の眼差しで見つめられ、私は目を逸らした。
「ねえ、本当に何もなかった?」
不安げな声がして視線を戻す。
「ないよ。私には暁人がいるんだから」
まっすぐに見つめると遥は目を見開いた。
「じゃあ、なんで泣くの?」
細い腕が伸びてきて私の頬に触れた。
「璃月さんのこと、なんとも思ってなかったら泣かないよね?」
大人びた微笑をたたえる遥に向かい、うなずきを返す。
「昨日、璃月さんに会ったんだ」
「……えっ?」
「どうしてもふたりのことが気になって……実は待ち伏せしてたの。でもね、本当に会えるなんて思ってなかったんだよ?」
遥は可愛らしく舌を出した。会ったというなら、たぶん私と別れた後だろう。
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