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「夕ちゃんにまた振られたって、笑ってた」
「…………」
「あたし、璃月さんが笑ってるのを初めて見たの。強がりとかじゃなくてね、本当に自然に笑ってた。それ見て思ったんだ」
遥は鞄から小さなケースを取り出して私の前でそれを開けた。
「璃月さんは夕ちゃんを好きになって幸せだったんだって」
中には淡いピンクの桜貝があった。
「海で拾ったんだって。夕ちゃんみたいにキレイだからって」
少しでも力を加えると欠けてしまいそうなくらい薄い貝殻。
「自分を好きになってくれたお礼にって、あたしにくれたんだ」
もしかしたら、私が海を眺めていたときに見つけたのかもしれない。
「せっかく見つけたのに、もらっていいのかなって思ってたけど。今の夕ちゃんを見ればわかるよ。きっと報われることがあったんだって」
「……ううん。傷つけてばかりだよ」
「そんなことないよ」
遥は私をそっと抱きしめてくれた。
「あたしの好きな人を幸せにしてくれて、ありがと」
「遥……」
息が苦しくなって……私は華奢な体にすがりついた。ゆっくりと背を撫でてくれる小さな手のひら。
「璃月さんの好きな人が夕ちゃんで良かった」
そう思えるのは遥の心が綺麗だからだ。私なんかより、ずっと……
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