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「……泣いてた?」
「あ、危ないから。本当にやめて」
それでも手を伸ばして私の頬に触れてくる暁人に懇願する。
「ごめん。これが最後」
温かい手が頬を数回撫でたあと、彼は自分の部屋へ身を引っこめた。
「俺はこれから部活だけど、帰りがけに線香上げさせてもらうよ」
「……うん」
冬休みに入ったけど、バスケ部の練習は相変わらずだ。私は、母とともに父の一周忌法要を行うために檀家のお寺へ行く予定だ。
「もうひとりで泣くなよ? 泣きたいときは俺の胸を貸してやるから」
整った微笑みを浮かべる暁人にドキッとしてしまう。不謹慎な自分に戸惑って私はうつむいた。
「今さら照れんなよ」
「てっ、照れてない!」
顔を上げたら、暁人は優しい眼差しで私を見つめていた。
父の訃報を受けたとき、私が正気でいられたのは……暁人がいたからだ。
『落ち着けよ。どうした?』
そのときの私はよほど取り乱していたんだと思う。電話越しの暁人の声にホッとして泣き出してしまい、彼は慌てて会いに来てくれた。
そして、深夜にも関わらず「俺も一緒に行く」と搬送先の病院までついてきてくれた。
あんなに長い夜は、初めてだった。
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