Scene1

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「……泣いてた?」 「あ、危ないから。本当にやめて」  それでも手を伸ばして私の頬に触れてくる暁人に懇願する。 「ごめん。これが最後」    温かい手が頬を数回撫でたあと、彼は自分の部屋へ身を引っこめた。 「俺はこれから部活だけど、帰りがけに線香上げさせてもらうよ」 「……うん」  冬休みに入ったけど、バスケ部の練習は相変わらずだ。私は、母とともに父の一周忌法要を行うために檀家のお寺へ行く予定だ。 「もうひとりで泣くなよ? 泣きたいときは俺の胸を貸してやるから」  整った微笑みを浮かべる暁人にドキッとしてしまう。不謹慎な自分に戸惑って私はうつむいた。 「今さら照れんなよ」 「てっ、照れてない!」  顔を上げたら、暁人は優しい眼差しで私を見つめていた。  父の訃報を受けたとき、私が正気でいられたのは……暁人がいたからだ。 『落ち着けよ。どうした?』  そのときの私はよほど取り乱していたんだと思う。電話越しの暁人の声にホッとして泣き出してしまい、彼は慌てて会いに来てくれた。  そして、深夜にも関わらず「俺も一緒に行く」と搬送先の病院までついてきてくれた。  あんなに長い夜は、初めてだった。
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