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「誠に申し訳ありませんでした」
「顔を上げてください」
体を直角に折ったままの安藤さんに対し、母は優しくも毅然とした声音で呼び掛けた。
「お願いだからもう自分を責めないで。あの人のためにも」
母の言葉に、安藤さんの足元へポツポツと涙が降り注ぐ。彼は、中にまだ人がいるとの情報から父と共に建物の中へ救助に向かった隊員のひとりだ。
『自分が足手まといだったせいで……』
安藤さんのせいじゃない。色々な原因が積み重なってそうなってしまっただけで。
それでも自分のせいだと、安藤さんは私たちに何度も謝罪を繰り返し、辞職を選択した。
「あいつは人一倍責任感があって熱い男だよ」と父が嬉しそうに語っていたことを思い出して、だからこそ耐えられなかったんだと密かに思った。
「大変おこがましいことですが……今でも浅山さんを尊敬しております」
しばらく話をした後、安藤さんは声を震わせた。人の役に立つ仕事がしたいという思いは変わらず、今は介護の職に就き日々奮闘しているらしい。
父の意志が色々な形で受け継がれていくと思うと……胸が熱くなる。
通夜や消防葬には署員や近所の方々がたくさん参列に訪れて、父がどれだけ慕われているかがうかがえた。
暁人が初めて泣くところを見て、一番の影響を受けていたのが彼だったということも知った。
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