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文芸部、ということになってはいるが。実質、この大学の文芸部は部として成り立っているとは言い難い。部員五人を超えているので一応部として成立していることになっているが、うち三人は幽霊部員。ほぼ部室には、三年生の梨世子さんと二年生の僕の二人しか来ていないのが普通だからだ。
僕だって、小説が書きたいとかどこかの公募を目指すとか、そういう理由でこの部に入ったわけではない。ただのんびり本を読んだりスマホをいじったりするのに、講義棟の隅の隅に部室を構えている文芸部の部室が非常に居心地良かったからという、それだけなのである。
ついでに、たまたま見学に来た時に見かけた先輩の梨世子さんがなかなか美人で目の保養だった。まあ、ぶっちゃけその程度だったのだが。
長身モデル体型、眼鏡をかけたいかにも文学少女っぽい美人――の梨世子さんが。まさかこんな残念な美人だったなんて、どうして想像できるだろうか。
「こうなったら最終手段よ、清瑠クン……!」
彼女は血走った眼で僕を見つめて言う。
「女装して私の代わりに面接行って!」
「…………」
「いやああああやめて!その眼やめて!冷たすぎる!」
「いや、自分でもわかってんでしょ、どんだけ無茶なこと言ってるか……」
いろんな意味で不可能だ。自分で言っていても悲しくなるが、多分僕は本気で女装すればそれなりになるタイプだとは思う。悲しいかな、未だに中学生相当に間違えられるほど低身長で細身の体格であるのは間違いないからだ。飲み会に行っても、免許の提示を求められなかったことがない。両親も祖父母もチビなので、確実に遺伝的なものだろう。
まあようするに。体格が違い過ぎるのである。女性ながら170cmをゆうに超える梨世子さんのフリができるはずもない。身長150cmちょいの男子をナメないで頂きたいものである。
ついでに言うならどう足掻いても顔が似てない。きりっと吊り目のいかにも強気そうな美人の彼女に対し、僕は眼が大きくてまるっこい童顔なのである。どんな変装の天才でも、僕を彼女に化けさせることなど不可能に決まっている。
「……先輩、筆記系の試験なら完璧じゃないですか。何でそんなに面接だけできないの」
僕はジト目になるしかない。
そう。彼女がさっきから喚いているのは、就職活動のせい。今時は三年生から就職活動をしている者も珍しくはないのだ。初めての面接、に行くのが嫌で、彼女は冬頃からチャレンジを先延ばしにし続けているのである。正確には、完璧に練習するのに直前で尻込みをして遅刻や欠席をして台無しにし続けている状態。――そう、面接で上がりすぎて、殆ど何もしゃべれなくなってしまうがゆえに。
「いつもマイペースなあんたにはわからないでしょーよ!」
うわああ、と机に突っ伏してじたばたしながら言う梨世子さん。美人形無しである。
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