頑張れ、就活一年生!

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「私はね、面接の“め”の字聞くだけで意識が遠ざかる女よ!頑張って会場に行こうとするとその途中の電車でお腹から地鳴りのような音がするの!トイレに駆け込んでそのまま動けなくなるのー!!」 「うわぁ」 「そして頑張りに頑張りに頑張りに頑張って会場に行ったら最後、今度は記憶がすっ飛ぶ羽目にいいいい!」 「だから何でなんですか」  確かに、世の中にはアガリ症と呼ばれる人もいる。中にはそれこそ治療が必要なレベルの人もいるだろう。そうでなくても、面接でまったく緊張しない人なんかいない。初めての面接ともなれば余計にプレッシャーはかかるに違いない。特に、面接官の質問にきちんと答えられる自信がない人なら尚更であろう。  問題は。 「面接のやり取りそのものができないわけじゃないでしょ、梨世子さんは」  僕はよく知っている。彼女が、練習ではほぼ完璧に受け答えできているということを。 「“質問その一。榊原梨世子さん。貴女が弊社を希望した理由を教えてください”」 「え?……“御社の作る、ユーザーへの思いやりにあふれた製品に感銘を受けたからです。特に、ユニバーサルデザインの概念を強く受け継いだペット関連商品は素晴らしいと思います。手が不自由な人でも使いやすいブラシや、ワンちゃんのサイズや障害によって使い分けることができる犬用車椅子を、もっと広く周知するため尽力したいと考えています”」 「“質問その二。貴女が考える、自分自身の強みを教えてください”」 「“誰とでも仲良くでき、コミュニケーションが取れるのが己の長所だと考えています。特に、人の良いところを見抜いて、生かしていくことに長けていると思っています”」 「……そこまできちんと喋れてんじゃん、何でっすか」  これである。  面接が苦手すぎる彼女のために、自分は何度も彼女の面接に付き合ったのだ。そして、そのたびに首を捻ってきた。僕と一緒に練習する時は、彼女は“面接室”に入ってから退出するまで、所作も質問の受け答えもほぼ完ぺきにこなすことができるのである。緊張のキの字も見えない。それどころか、想定外の質問が来ても笑顔でアドリブをこなしてくるほどである。  確かに、慣れ親しんだ文芸部の部室と、見慣れた僕を相手にするのでは緊張の度合いが違うのもわかってはいるが――。 「練習と本番、そんなに違います?というか、面接対策講座みたいなのも受けてるんでしょ、その時もうまくできてたんじゃないですか?」 「そ、それなんだけど……」  彼女は眼を泳がせる。 「実は、練習は練習でも……面接対策講座で先生にやってもらう時もうまくいかないの。本番の時よりは幾分マシなんだけど、頭が真っ白になっちゃって全然……」 「ええ?練習なのに?」  それは初耳だった。てっきり、本番でさえなければきちんと話せるとばっかり思っていたというのに。
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