頑張れ、就活一年生!

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「……清瑠クンがやってくれる時は、全然怖くないのに」  彼女は涙目になりながら、ちらっと時計を見た。本人もわかっているらしい、そろそろ出発しなければまずい時間だということを。  いい加減、うだうだ言ってないで腹をくくらなければいけないといことを。時計はけして、止まってはくれないのだから。 「何で、面接って一人で受けなくちゃいけないの。独りぼっちなんて寂しいじゃん。誰か……信頼できる人と一緒なら、怖くなんかないのに。頑張れるのに。私だって、ちゃんとやりたい、やりたいけど……」  信頼できる、人。彼女が誰のことを言っているのか、なんとなく察してしまった。  僕と面接の練習をする時は怖くない、独りぼっちだとは思わない。それって、つまり。 「……そ、その」  僕は斜め上を見て、ぼそっと呟いた。 「べ、別に。離れてたって僕、梨世子さんのこと応援してますよ?独りぼっちにしてるつもりなんか、ないし……そ、そうだ」  僕は椅子から落ちそうになりながら、机の横に置いてあった鞄に手を伸ばした。そして、ベルトに括りつけてあったお守りを外す。  学業祈願なので、就職活動に役に立つかはわからないが。 「こ、これ!僕が中学校の時から使ってる、ボロいお守りですけど。僕が傍にいて梨世子さんが落ち着くなら、これ握って面接したらどうですか!一緒にいる気持ちになれるかもしれないでしょ」 「え?これ、大事なお守りじゃないの?いいの?」 「いいですよ、あげ……あ、でもボロボロだから、新しいの買った方が本当はいいとは思うんですけど」 「……ううん、これがいい」  梨世子さんは。さっきまでとうってかわって、しおらしくお守りをぎゅっと握りしめた。 「ありがとう、大事に、するね」  なんだ。可愛い顔も、できるんじゃないか。お守りを握って俯く先輩が、それこそ恋する乙女でも見るようで――思わずドキリとしてしまう。きっと彼女は自分のことなど、親しみやすい弟のような後輩だとしか思ってないのだろうけれど。なんせ、普段はとってもモテる女性だ。 「あと、一個だけお願いしていい?それがあったら、私、もっと頑張れる気がするから」  そして彼女は、ぴっと指を一本立てて告げたのだ。 「うまくできたら駅前のカフェの……“ノルシェ”で奢ってくれない?期間限定の、ビックベリーパフェ」
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