7人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「……清瑠クンがやってくれる時は、全然怖くないのに」
彼女は涙目になりながら、ちらっと時計を見た。本人もわかっているらしい、そろそろ出発しなければまずい時間だということを。
いい加減、うだうだ言ってないで腹をくくらなければいけないといことを。時計はけして、止まってはくれないのだから。
「何で、面接って一人で受けなくちゃいけないの。独りぼっちなんて寂しいじゃん。誰か……信頼できる人と一緒なら、怖くなんかないのに。頑張れるのに。私だって、ちゃんとやりたい、やりたいけど……」
信頼できる、人。彼女が誰のことを言っているのか、なんとなく察してしまった。
僕と面接の練習をする時は怖くない、独りぼっちだとは思わない。それって、つまり。
「……そ、その」
僕は斜め上を見て、ぼそっと呟いた。
「べ、別に。離れてたって僕、梨世子さんのこと応援してますよ?独りぼっちにしてるつもりなんか、ないし……そ、そうだ」
僕は椅子から落ちそうになりながら、机の横に置いてあった鞄に手を伸ばした。そして、ベルトに括りつけてあったお守りを外す。
学業祈願なので、就職活動に役に立つかはわからないが。
「こ、これ!僕が中学校の時から使ってる、ボロいお守りですけど。僕が傍にいて梨世子さんが落ち着くなら、これ握って面接したらどうですか!一緒にいる気持ちになれるかもしれないでしょ」
「え?これ、大事なお守りじゃないの?いいの?」
「いいですよ、あげ……あ、でもボロボロだから、新しいの買った方が本当はいいとは思うんですけど」
「……ううん、これがいい」
梨世子さんは。さっきまでとうってかわって、しおらしくお守りをぎゅっと握りしめた。
「ありがとう、大事に、するね」
なんだ。可愛い顔も、できるんじゃないか。お守りを握って俯く先輩が、それこそ恋する乙女でも見るようで――思わずドキリとしてしまう。きっと彼女は自分のことなど、親しみやすい弟のような後輩だとしか思ってないのだろうけれど。なんせ、普段はとってもモテる女性だ。
「あと、一個だけお願いしていい?それがあったら、私、もっと頑張れる気がするから」
そして彼女は、ぴっと指を一本立てて告げたのだ。
「うまくできたら駅前のカフェの……“ノルシェ”で奢ってくれない?期間限定の、ビックベリーパフェ」
最初のコメントを投稿しよう!