0人が本棚に入れています
本棚に追加
今度はこっちから唇を重ねた。
柔らかい。僕の口内に降り積もる温かい液体。吸い込まれるような感じ。事実吸い込まれていった。舌を出していた。
すぐに手で胸を押された。距離が離れる。
「…んはぁ、ちょ、ちょっと、舌入れるの早すぎ」
「あまりに柔らかかったから、つい」
「う、うぅ…」
彼女がその場にしゃがんで顔を下げる。顔を見られたくないんだろう。
だったら後ろを向けば良いのに。わざわざしゃがんでいる。普段は垣間見えない女の子らしさ。
ついその気持ちが言葉として口から出る。
「可愛い」
「えっ」
「可愛いって言ったんだけど」
彼女はしゃがんだまま顔を左手で隠しながら右手の人差し指を見せてくる。
『もう一度言って』
人差し指に口が付いていたらそう言っているに違いない。
「可愛い」
今度は両手を顔に当てたまま足をたたみ込む。体操座りの姿勢。両手と両足で顔を隠している。むしろこっちが顔を隠したい。そこまで嬉しいのか、それとも逆なのか。
「大丈夫?」
僕もしゃがんで心配する。
体操座りをした彼女の右手の人差し指と中指の空間から一つの眼が僕を見つめていた。それはまるで鏡に映ったような幽霊のようにも見える。
「こわっ」
僕が思わず悲鳴を声を上げてしまうと彼女は体操座りを解いて早足でこっちに駆け足で来る。また僕の背中に手を合わせてきた。抱き締められる。
「でもやっぱり女の子から告白するのはダメ?」
「うん、ダメ。告白はされたいより、したい派だから」
おしまい。©2021年 冬迷硝子。
最初のコメントを投稿しよう!