0人が本棚に入れています
本棚に追加
12月25日
クリスマス。
学校の屋上。
ぴかーん、どーん、ぱらぱら。
いつもは月光と闇に支配されてるのに今は花火の音がうるさいほど聞こえた。
火花は暗闇に一瞬の明るさをもたらす。閃光の瞬間、昼のように空の全部が見渡せる。冷たさが温かさに変わる。そして戻りまた変わる。紅い雪が降りつもる。
夏とは違う感覚。12月という季節外れの花火は意外と心地良い。
「そのまま、そのまま目つむってください」
ここに来てからずっと無言だった彼女が口を開いた。
目を閉じろと言う。素直に従うしかなかった。恐怖心も少しはあったことは心の内に留めておく。
目を瞑ると余計に寒さと温かさの差が感じられる。少しの風と大きな火花とざっざっと歩く音がして。
「もういいですよ」
開けると彼女が居た。それも満面の笑みで。
背景の花火とその笑みが合いすぎて惚てしまう。その隙を狙ってこちらに向かって走ってきた。
そして背中に手を回されて。
「…っ!?」
名前を呼べなかった。唇を塞がれてしまったから。
さっきまでうるさかった花火の音がその瞬間消えた。
抱き締められる力が弱ることもなく、むしろ強くなっていく。唇も同様に。
僕の視界には彼女の長い髪と花火が映っている。
花火を見ながらのキス。
昼のように瞬いた夜空に流れ星が見えた気がした。願い事なんか唱える暇もなくこのシチュエーションに心を奪われた。
何秒経っただろう。
そんなに長い間してなかったのに長く感じた。
もう寒暖差など感じられない。暖かい。むしろ暑いくらいだ。
白い雪ではなく紅い雪が降り積もる。
「っはぁぁ…」
彼女が色っぽい甘い声を出して唇を離す。抱き締める腕も解いた。少し後ずさる。
花火の逆光で顔色が窺えないがこちらに顔を向けた。
まるで初めて会ったときのような不安げな雰囲気を身に纏い出す。
「女の子から告白するのはダメですか?」
最初のコメントを投稿しよう!