第一部・2 はじまりのロックンロール

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もぐもぐと歯切れ悪く吐き出して、幸助の視線は再び足元に落ちた。 高校二年の夏休み、青臭い思い出が記憶のドアを叩くが逃げるように目を逸らす。 佑賢は何かにつけてこのエピソードを持ち出すが、幸助にとっては恥ずかしい青春の1ページなのでまともに向き合いたくないのだ。 佑賢の人生を変えたらしい歌詞も、記憶の奥深くに仕舞い込んでしまってワンフレーズも出てこない。 俯いてしまった幸助を見て、佑賢は思い出話をやめてくれた。短いため息の後、少し考えて「つまり、」と言葉をつなぐ。 「お前は作詞が全くできないわけじゃない。作詞の仕方がわからなくなってるだけだ。だったら、それを教えてもらえばいい。作詞ってどうやってやるのか、どうすればいい歌詞になるのか、マンツーマンで指導してくれる先生がいればこの現状は必ず打開できる」 佑賢の話が思わぬ方向へ転じ、幸助はきょとんと目を見張った。 つい顔を上げてしまうと、佑賢は勝ち誇ったような顔で頷く。 「というわけで、お前に作詞の講師をつけることにした」 「は? 講師?」 「明後日から短期集中講座だ。心してかかれよ」 「え? ちょっと待ておい、佑賢!?」 置いてけぼりの幸助を楽しむように目を細めて、佑賢はさっさと踵を返した。その後ろ姿を慌てて追いかけながら幸助はじわじわと現状を理解していく。 作詞の講師。 確かに、マンツーマンで指導してくれる人間がいるというのは心強い。 添削をしてもらうのも良いだろうし、そもそも作詞の基礎みたいなものを教わる絶好の機会なのかもしれない。 講師と呼べるほどの存在なら、今売れているメジャーアーティストがどうやって作詞しているのか、「売れる歌詞」を書くコツみたいなものはあるのか、なんて話も聞けるかもしれない。 ただ問題は、そんな人間が即日サクッと捕まるのか、ということだ。 名のしれた作詞家というわけではないのだろう。 アマチュアか、はたまた同業のシンガーソングライターか。 いや、同業が作詞の講師なんかしたらライバルに手の内を明かす事になる、ということはやはりアマチュア作詞家か? そんなやつにPinkertonの未来を左右する大事な局面を任せていいのか?
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