第一部・3 世界の色が変わった日

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第一部・3 世界の色が変わった日

その日は朝からスッキリしない天気で、ぐずついた空を横目に幸助は手ぶらで家を出た。 作詞の講師と顔を合わせるならギターがあった方が良いかと思ったが、佑賢(ゆたか)は即「不要」と返してきた。どうやら一足先に作詞の講師と対面しているらしい。 電車一駅分の時間を、幸助は悶々とした気分で過ごした。 今日出会う人物が男か女かもわからないままでは、どんなテンションで行ったらいいのか悩むばかりだ。 講師、と言われてなんとなく年配の男性を想像しているが、これが若くて可愛い女性だったら素直に動揺してしまうだろう。 もしかしたらワンチャン恋が始まるかもしれない、なんてことまで考えてしまっては、閑散とした井の頭線の座席に座っていることもままならない。 吉祥寺の駅を出てアーケード街を真っ直ぐ行くと、二車線の大通りに出る。 空はいよいよ陰鬱としてきて、気の早い老人がビニール傘をさし始めた。 降られないうちに屋内に逃げ込みたいと思いつつ、幸助の足は重い。 大手百貨店の並びにファミレスの看板が見えてくると、いよいよ緊張と不安で逃げ出したくなる。 気晴らしにと尻ポケットのスマホを取り出すと、佑賢からメッセージが来ていた。 そろそろ到着すると見越してか、店内のどこに座っているかが詳細に記されている。 窓際のボックス席と言うことはあの辺か、と建物を見上げても、店内の様子など見えるはずがない。 佑賢はきっと、こちらを動揺させようとして相手を秘密にしている。 ビビる反応を見て楽しむつもりなんだ。 そう思うと、何だか返信する気になれなかった。 既読がついたからいいかとスマホを仕舞い、エレベーター前で短く息を吐く。 別に緊張なんかしてねぇし、ビビる必要もない。 相手がどんな奴だろうと作詞の講師だって事は変わらないんだから、俺は俺でいつも通りいけばいい。
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