第一部・3 世界の色が変わった日

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サクッと作詞のなんたるかを教えてもらって、知識や技術を目一杯盗んで、佑賢が驚くようなスピードで良い歌詞を書けるようになってやる。 そう自分を鼓舞しながら店に入ると、店員より早く佑賢が反応した。 わざわざ立ち上がって片手をあげながら、向かいの誰かと何かを話し、くしゃりと笑う。 ボックス席を仕切るすりガラスのせいで姿は見えないが、佑賢が長髪を後ろに括ってないから相手はやっぱり女かもしれない。 なんて謎理論で緊張を加速させながら、その席へと重い歩を進めていく。 「あ、こんにちは」 幸助を見上げて、その人は笑った。 黒縁メガネとバケットハット。高校生でも通りそうな童顔。 歯並びが悪い。右の八重歯が強く印象に残る。 どうも、と短く返したはずだが、意識が視界に集中しすぎていて自分が何を言ったかわからなかった。 佑賢がわざわざ一度席を立ち、窓側に幸助を座らせる。 それだけで佑賢が途中で帰るつもりだとわかってしまって、つい縋るような視線を向けてしまった。 それを受け止めた佑賢は、幸助の予想通り楽しそうに笑うだけ。 「雨降ってた?」 「あぁ、まぁ」 佑賢のどうでもいい質問を、幸助は全力で流してしまった。 質問の意味を理解する余裕すらなく、羽織ってきたウィンドブレーカーを脱ぐことすら忘れている。 佑賢が何か言葉を返したようだが、もはや音として認識も出来なかった。幸助の意識は全て、視界の情報に囚われている。 向かい合った“作詞の講師“とやらは、男だった。 洒落た服を着た、華奢で小柄な男。 アイドルでもやっていけそうな中性的な顔立ちと、バケットハットから覗く重めの前髪。 大きな目、ツルツルの肌、小さな顔、またちらりと覗く八重歯。 大袈裟な黒縁眼鏡はおそらく変装用の伊達だろう。 知らない顔ではなかった。 むしろ何でこんなところにいるんだと目を疑う存在だった。
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