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場違いに堅苦しい言葉で綴られた理想を、雑誌のインタビューかよ、と揶揄するものは誰もいない。
その場にいる全員が、Pinkertonの音楽はそうあるべきだと感じていたからだ。幸助のトラックメイカーとしての才能は、最早界隈の誰もが認めるほどのものだった。
「だから、……幸助」
名前を呼ばれ心臓が跳ねた。
顔を上げると、全員の視線が自分に注がれているのがわかった。
この話の流れであればこうなる事はわかっていたはずなのに、幸助の頭の中は突き抜けるほど真っ白になった。
「お前が日本語で歌詞を書けるようにならないと、俺たちここから先に進めないんだよ」
何を言われても、今の自分に出来ることは一つしかない。
この息苦しい場所から一旦離れること。酒でも煙草でもなく酸素を吸うこと。
そうしなければ心臓が痛くて潰れそうだ。
思うことはそればかりで、佑賢の言葉を皆まで聞かないうちに幸助は席を立った。
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