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立花樹
ホテルに戻っても興奮は収まらなかった。
「タグを見つけたとき、私まだ余裕があったのよ! あっ、タグって、分かる? 大会では自分がどれだけ潜るか事前に申請するの! そうすると、ロープのその位置にタグをつけておいてくれるのよ。選手はそのタグを目指して潜るってわけ!」
意気揚々と語る私の話を、樹は黙って聞いている。
幼馴染から数えて20年来の付き合いとなる立花 樹。
彼の浮かない表情にようやく気づいた私は、思わず口をつぐんだ。
しばしの沈黙を挟んで樹は言った。
「美佳はさ。
いつまでフリーダイビング続けるつもりなの?」
予想外のセリフに、私の思考は固まった。
「いつまでって……今日私、日本新記録出したんだよ? 樹も見てたでしょ? この日のために私がどれだけ頑張ってきたか……」
「見てきたよ。この大会のためだけに費やされた美佳の生活をね」
「だったら今そんなこと言わなくても……」
「今初めて出した話じゃない! 再三言ってきたのに聞かなかったのは美佳のほうだろ?」
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