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「なっ…!?」
俺はまず女の足を近くにあった酒瓶を使って引っかけて転ばせた。ついでに近くにあった酒を女にかけておいた。
そして怯んだ隙に玄関から外に出て「助けてください、お母さんに殺される…!!」と叫んだ。朝だから人目も多い。この母親も下手なことは出来ないだろう。
近所の人の春宮さんの家の子よね、という声と警察を呼ぼう、という声が聞こえる。これが狙いだった。
警察に捕まっちまえばいい。
俺はお前のことこれっぽっちも母親だなんて思ってないからな。
俺は捕まらないように住宅街のど真ん中にまで逃げる。しかし確実にあの女の行動が見える距離だ。あんな有害女逃すわけにはいかない。俺はヨウのことも救うんだ。
.
…しばらくして、警察のサイレンの音が聞こえた。逃げようとしていた母親は近所の人の目を気にして逃げるタイミングを見失い、警察に連れていかれた。
俺も同様事情聴取と保護のために警察に連れていかれる。
…ああ、ルカとしばらく会えなくなるのか。孤児院だもんな、孤児院暮らしになっても…ルカは俺を軽蔑しないでくれるだろうか。
俺が生きるためにはこれしかなかったんだ。
でも、軽蔑なんてされるくらいならしんだ方が……俺がそう考えていると背後から「ヨウ…!」という声が聞こえた。
嘘、嘘だろ、何でここに……
俺は後ろを向いた。そこにはここにいるはずのない人物がいた。
「る、ルカ……っ」
ルカの手には俺に持っていくつもりだったのであろう、食事の入ったショッピングバッグがあった。それだけで泣きそうなのに、この状況で俺に声掛けてくれた。最後かもしれないがまた声が聞けて嬉しい。
「……ヨウ!絶対、絶対迎えに行くから!
次はもっと強くなって会いに行くから…!」
ルカは何かを考えたようにしてからそう俺に叫んだ。
頭のいいルカのことだ。俺がこの先どこに行くかなんて知っているだろう。…いや、まだ幼いから知らないかもしれないが。
それでも嬉しかった。俺はこの先の生活が怖かったから、嬉しかった。
ルカのために俺はもっと勉強して、もっと賢くなってまたルカに出会えるようにしよう。
花またの舞台の高校は確かそれなりに偏差値があったはずだから。私立だが、特待生枠があるからそこを狙っていこう。
…絶対に、絶対にルカにまた会いたい。
俺はもうパトカーに乗せられるところだった。俺は必死の思いでルカに向かって叫んだ。
「お、俺も…!絶対に会いに行くから!」
運命が変わるかなんてわからない。
それでもせめてルカがひとりぼっちじゃないように、物語通り姉に恋をしたとしても一人でいなくなることがないように、孤独で絶望しないようにその時は俺が絶対にそばにいる。 だから、ルカと並べるくらいに俺はルカにふさわしい人間になる。
パトカーに乗せられ、過ぎ去っていく景色の中で確認したのはルカが泣きながら手を振っている姿だった。
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