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はじまり
「…あ、あれ、ここは……」
目を覚まして初めて見た天井は見覚えのないものだった。
俺は確か火事に巻き込まれて…あれ、なんで俺生きてるんだ?間一髪で救われたのか?
いやでも消防車が着く音なんて聞こえなかった。
ってことは…?ここはどこだ…?
「ああ、やっと起きたのね。」
聞き覚えのない女の声が聞こえる。
こいつは誰だ…?まさか誘拐、いやないよな。煙まみれのあの状況で飛び込んでくるやつなんていない。
「全く、遅いのよ。すぐ気失っちゃってほんっと、あんたって弱いわよね。まああたしと似て顔だけは綺麗だし、その身体で売った方が売れるんじゃないかしら?」
女の高笑いが聞こえる。
その瞬間腹を蹴られた。
「う…っ!」
あれ、なんで俺蹴られてるんだ?
この女は誰だ?そもそも俺は”俺”なのか”…?
「うっ…ですって!汚いやつは呻き声まで汚いのね!!」
「ぐっ、…う…っ、や、やめ、!」
女は俺を罵倒しながら再び蹴り続ける。
痛い。痛い。苦しい。なんで俺は初対面の女にこんなに暴力を振られているんだ?
「やめるわけないでしょ、あんたがいたせいであたしの全てが狂ったのよ。ほんっと最悪、あんたのその安い身体でせめて罪を償いなさいよね。」
女は嘲笑い相変わらず俺を蹴りながらそう言う。
そして暫くして飽きたのか、足を止めて玄関の方に向かった。俺は必死に殴られた腹や胸や足を抑えながら自分の身体を見る。
あれ、俺ってこんなに身体小さくないよな…?
俺を散々蹴った女は再び俺の方を見て口を開いた。
「外に出たら許さないわよ。ヨウ。
あんたみたいな陰気な男が太陽のヨウだなんて、ほんっと似合わない名前よね。」
女はそれだけ伝えて外に出かけていった。
ヨウ、ヨウって言ったか…?
俺はヨウなんて名前じゃない。
俺は元々陽斗(ハルト)という名前だ。
確かに太陽の陽の字はついているがあだ名で呼ぶであればせめてハルだろう。
俺は不思議に思い、必死に身体を抑えながらあの女が化粧のために使っているのであろう鏡を開いて自分の容姿を見た。
「は、超美少年じゃん……」
俺は別にナルシストではない。
ただ鏡に映ったその姿を見てポロっと言葉を零してしまった。
そこにいたのは綺麗なクリーム色の髪に透き通るような灰色の瞳の美少年だった。
あちこちボロボロだけど。ヨウ?とやらは普段からあの女…多分母親に殴られたり蹴られたりしているのだろう。身体のあちこちが痣だらけで綺麗な顔もボロボロだった。
これって虐待、だよな…?
外に絶対に出るなって言われてたけど…家で待っていても外に出ても暴力を振られるならいっそ後者の方がマシだろう。
俺はそう思い、特に痛む腹を押さえながら外に出た。
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