はじまり

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外は至って普通の住宅街だった。 俺はボロアパートの一室を出て母親にバレないようにコソコソ隠れながら移動をした。 しかし、しかしだ。 「…ここ、どこだ?」 見覚えのない景色でどこに行けばいいかわからない。 せめてここがどこかわかればな……。 俺がそう考えていると背後から袖を少し引かれた。 ん?誰だ…? 振り返るとそこには自分より歳下っぽい小柄な男の子がいた。 男の子は綺麗な黒髪に空色の瞳をしていた、かなりの美少年だった。俺も美少年だったが、彼は俺以上の美少年だな。 俺がそんなことを考えていると男の子は口を開いた。 「……お兄さん、どうしたの?」 「あ〜、えっとね…ちょっと迷っちゃって…あはは、」 俺は軽くそう答えた。別に今のところはどこかに行く予定は無いが迷ったのは間違いではない。 すると男の子は俺の瞳を見つめて袖を握る力を少し強くした。 「…そうじゃなくて、何でそんなにボロボロなの?」 あ〜そっちか。まあ普通はそう思うよな、俺もさっきの母親の暴力がなければ疑問に思ったもん。 「…えっと、階段から落ちた?」 流石に自分より歳下の男の子に事実を言うわけにもいかないと思い、俺はそう告げた。 すると男の子は見透かすような瞳で俺を見つめながら、少しだけ俺に近付いた。 「え、なになになに、どうした…の…」 「…お兄さん、あのボロアパートの2階に住んでるでしょ」 「…っ、」 何でそれを知ってるんだ。 そんなに有名なのか? 俺は焦りつつも、男の子と少し距離を置こうとした。しかし男の子がそれを許さなかった。 俺は突然男の子に抱き締められた。 え、これどういうこと? 俺掴まったりしない?いやしないか、見た目は俺も今美少年だし。 ってそうじゃなくて、俺なんで美少年に抱き締められてるの!? 俺が焦っていると男の子が口を開いた。 「……痛そうだったし、お兄さんが消えそうだったから抱き締めなきゃいけない気がした」 な、なるほど…じゃない! 俺はいい香りのする男の子を少し離して動揺を隠すように笑った。 「お、俺は大丈夫だよ! と、というか君名前は?」 俺は話題を変えるためにそう質問をした。 もしかすると知り合いかもしれない、そうであれば申し訳ない。 すると男の子は少し笑ってから、口を開いた。 「他人に聞く前に自分から名乗らなきゃでしょ?お兄さん」 俺は確かにそうだ、とハッとし急いで自分の名前を思い出して口を開いた。 「お、俺の名前はは…じゃなかった、ヨウ!」 「…苗字は?」 「みょ、苗字…?」 苗字、知らないな。表札も掛けていなかったしわからない。どうしよう、なんか適当に言うか?…いや、バレるかな…。 俺は諦めて口を開いた。 「わ、わからないんだ」 すると男の子は少し驚いたような顔をしてから笑った。 「はは、自分の苗字わかんないってどういうこと?お兄さん面白いね。…まあいいや、俺の名前は花咲(ハナサキ)ルカ。よろしくね、お兄さん。」 男の子はそう自己紹介をして手を軽く差し出してきた。俺はそれ以上に聞いた名前に衝撃を受けていた。 「ん…?え、君今花咲ルカって言った?」 信じられない。本当であれば夢だろうか、はたまたドッキリだろうか。 すると花咲ルカと名乗った男の子は、少し笑ってから俺の瞳を見つめてきた。 「うん、俺は花咲ルカ。…お兄さん、もしかして俺のこと知ってるの?」 「え、えっと………」 嘘!嘘だろ!?!?知ってるも何も推しなんですが!!!!!!??? え、幻覚?幻聴?夢? 俺の目の前に本物の花咲ルカがいる。 こんな声なんだ、幼少期はこんな姿なんだ。 小説だった為、幼少期の姿やボイスは公開されていなかった。 会えたことが涙が出そうなほどに嬉しくて仕方がない。 俺が感極まっていると男の子はまた笑って、俺の頬に触れてきた。 「ふふ、お兄さん慌てたり泣きそうになったり忙しいね。…面白いなぁ」 「…あ、あはは、」 ん?今最後面白いって言った? き、気の所為だよな? 何はともあれ目の前に本物の花咲ルカがいる。夢みたいだ。 俺は絶対にルカを救いたい。 この世界で、ルカに幸せになって欲しい。 「…る、ルカくん!お、俺は何があってもルカくんを守るから!!」 必死にそう告げるとルカは目を少し見開いて驚いたような顔をした。そしてそのすぐ後に大笑いをした。 お、俺そんなに変なこと言ったか…? 「ふふ、あはは…っ!お兄さん変なの、泣いたり慌てたりしたかと思えば次は俺を救うって?ほんと面白いね、お兄さんは。」 「あ、あはは……」 ほ、本気なんですが。 俺はどうなってもいい。何としてでもルカが幸せになればいい。俺はルカが幸せに生きる世界で生きていたい。 その為には恋のキューピットにでもヒーローにでも悪役にでも何だってなってやる。 俺がそう覚悟を決めているとルカは手を握ってきて、俺と目を合わせてきた。 う、うう、推しだとわかった途端破壊力半端ねえな…顔が良すぎる……… 花またの小説の表紙は主人公と主人公が好きになった相手(結ばれる相手)ばっかり描かれていたからルカをそんなに見る機会がなかったのだ。ましてや幼少期なんてどこにも載っていなかった。 そこからのこれは……やばいな…… 「…ふふ。…うん、期待してるよ。ヨウくん。これからよろしくね。」 「う、うんこちらこそよろしくね、ルカくん!」 __お父さん、お母さん、俺はどうやら推しのいる世界にトリップしたみたいです。 俺の今世どうなるんでしょうか。
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