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目的の教室に向かうにつれて、音は大きくなる。どうやら同じ棟らしい。僕を追い越して、熊のように大きなジャージの先生が、一番端の教室に走っていった。問答無用で戸を開ける。
「コラーッ! 五十嵐! うるさいと何度言ったら分かるんだ!」
アンプから出る爆音を吹き飛ばす大声。それと同時に《五十嵐》という生徒が、脱兎の如く飛び出して来た。
目も眩むような真っ赤な髪を靡かせ、こっちに走ってくる。目にも留まらないくらいのすばしっこさ。
ーーと、大きな吊り目の彼の足は僕を見た瞬間、急に止まってたたらを踏んだ。
「と、とととと、とと……!」
無遠慮に僕を指差して、縦に開いた口から同じ音を繰り出す。
「とぽ……?」
「…………!」
見つめ合う僕たち、というより五十嵐の隙をつき、先生が赤毛の彼の首根っこを掴む。
「ぐえ!」
「お前は音楽室出入り禁止だ! と、何度言えば分かるんだ! 今日こそ反省文書かせてやる!」
「ちょっ、待って待ってまじ今だけはお願いします……」
《五十嵐》はそのまま引き摺られていく。その顔は僕の方を向いたままだった。
僕はというと、名前を呼ばれた時に跳ねた心臓が、胸を突き破るみたいにまだどきどきしていて、動くことさえできなかった。
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