369日の終わり

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そんなことは噯(おくび)にも出さず、微笑みながら、 「まだ飲むでしょ?」 とキッチン越しに男に聞く。 むしろ、まだまだ飲んでもらわないと困る。 酩酊状態も、重要なファクターのひとつだ。 再びダイニングに移動し、男の足元に無造作に転がる空瓶を回収する。 いっそ、この瓶で頭をかち割ってやろうかと何度考えたことか。 それなら、雪が降るのを今か今かと待ち侘びる必要はなかった。 憎悪を抑え込み、なんでもないように笑うことも、ましてや今以上ストレスを溜め込むことも。 それどころか、瓶で力一杯殴ることで、その全てを発散し解消できたことだろう。 ただ-- 血が辺りに飛び散って掃除が面倒だ。 殴った感触は、そのときは良くとも後々吐き気がくるくらい気持ち悪いかもしれないし、なにより、他殺だ、と。 私が殺ったとすぐにばれてしまうのがなによりもいただけない。 推定無罪、疑わしきは罰せず、せめてそこまではもっていく。 思考に引きずられ目つきが鋭くなる。 私は女優ではないから、顔が険しくなっていた瞬間が一年を通して何度となくあっただろう。 こちらを見ない男の態度は、このときばかりは非常にありがたかった。 ただ、今のまま声を出せば、そこにはきっと棘が出ると思った。 だから、私は男に聞こえない程度に息を吐いてから言った。 「ビール、外にそのままにしてるの。この寒さだから冷蔵庫よりも冷えると思って。取ってくるわ」
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