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リビングダイニングの白いスライドドアを開けると、そこはもう玄関で、温度差に身体がぶるりと震えた。
それが武者震いのようで、少し笑える。
靴を履き、今度は玄関扉を押し開けた。
僅かに開いた隙間から、冷気と雪が滑り込んでくる。
一面、銀世界だ--
今朝方玄関脇に置かれたビールケースにも、既にこんもりと雪が積もっている。
まだまだ、降り止みそうにない。
ケース上の雪をどけながら、「ふふっ」と、漏れ出た声を噛み殺す。
ばかばか私、全部終わっていないどころか、まだたいして始まってすらいないんだから--
頭を出したビール瓶を引き抜いて、その空いた場所に持っていた空瓶をおさめる。
不意に思い出す。
一年前の落胆を。
塵芥(ちりあくた)のような雪で、酷く絶望した。
絶望した後にきたのは怒りだ。
怒りが憎悪に変わり、肥大し、それは今年は暖冬だと言った気象予報士にも飛び火したほどだった。
リビングダイニングに戻る。
冷えた体に血が通う。
男の背中を通り過ぎ、キッチンへと入る。
その間も一度もこちらを見ない男。忌々しい。
「ありがとう」ぐらい言えないのか--
鍋をふたつ火にかける。
作っておいた煮込みハンバーグ。
小さい鍋に入ったひとつだけは、睡眠薬入りの特製仕様。
初めは瓶のほうに入れようかと思ったが、飲み残しから検出されると思うと処分が面倒だ。
ハンバーグを残す可能性もあるが、そう思って一口サイズにしておいた。
それだけをパクリと食べさせればいい。
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