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料理を温めている間に、ビール瓶の栓を抜こうとするが、手が震えて上手くいかなかった。
緊張ではない。
部屋は十分に暖かいが、雪を触って悴(かじか)んだ指が言うことを聞かないせいだ。
私は、コックを上げて湯で指先を温めた。
シンクに、ジャアジャアと湯が流れていく。
幸福や愛情ばかりが、こんなふうに、私という器から貯まることなく流れ出してしまうのは何故だろうか--
憎悪や憤怒ばかりが、雪解けを知らない冬山のように降り積もるのは何故だろうか--
身体はすぐに温まるのに、心だけが永遠と冷え続けるのは何故だろうか--
指の感覚が戻ったところで、作業を再開する。
栓を抜き、新しいグラスと共に盆の上にセットする。
小ぶりな食器を選ぶと、フライパンの蓋を外し、小さな鍋の中身をよそう。
睡眠薬入りと普通のハンバーグ、両方盛ろうかと思ったが睡眠薬入りのものだけにした。
普通の方だけを食べられては元も子もない。
それも盆に載せ、テーブルに持っていく。
男はちょうど、先に出していたツマミを食べ終わったところだった。
皿を交換する。
「これ、新しいビールとハンバーグ。小さめだから、もっと食べたかったら言ってね」
「ああ」
男はひとつ相槌をうつと、早速箸を伸ばし、ハンバーグを二つに割ってから口に入れた。
それを見届けてから、再びキッチンへと戻る。
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