369日の終わり

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小さな鍋を念入りに洗う間、男の様子を観察する。 味の指摘はない。 妙な味がしたらどうしようかと思ったが問題ないようだ。 私からの三行半、もっと噛み締めて食べるといい。  男が眠るまでは、凡(おおよ)そ20分を要した。 まさか効かないなんてこと、と内心焦りはあったが、やがて頭が不自然に揺れ出して、最終的には机に突っ伏してしまった。 ハンバーグは結局ひとつしか食べなかったので、あのときの自分の判断を誉めてやりたい気分だ。 「さて」 手始めに、男の名前を呼び肩を揺すってみる。 これで起きてしまった日には、私にはもう、瓶ビールで頭をカチ割る道しか残っていない。 幸い、反応はない。 反応はない、が、ここからはどんどん手荒になる。 私にできることは、計画を粛々と進めつつ、どうぞ起きるなと祈ることだけだ。 リビングからウッドデッキへと出る窓を全開にする。 先程よりも更に雪は酷くなっていた。 家の中にまで雪の粒が入ってくるが、今多少入ってきたところでどうということはない、どうせ一晩中開け放しておく算段だ。 次に男の両脇に手を入れる。 胸の前で両手の指を絡め、ひと呼吸おいてから、一気に椅子から引きずり下ろす。 椅子は倒れるだろうと思っていた。 事実倒れた。 予想していたのに胸がドキリとしたのは、その音が想定していたより大きかったからだ。 息をひそめる。誰も近くにいないのに。 きっと、本能的なものだろう。
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