369日の終わり

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男の背を見下ろしたまま靴下を脱ぐ。 靴下だけでなく、裾も袖も濡れている。 無我夢中で気づかなかったが、ひと段落ついたことで、疲労と寒気が急激に体を支配した。 服をパジャマに着替え、ビシャビシャの足で歩いて濡れた床を拭かなければいけないが、まずは熱い風呂につかりたかった。 男から片時も目を離したくはないが、せめてシャワーだけでも、と踵を返したところで、ふっ、と鼻息がもれる。 片時も目を離したくないなんて、場面が違えばとんだ殺し文句に聞こえるかしら-- 手早くシャワーを済ませる。 頭を洗うのはやめておいた。 墓から甦るゾンビのように、あの男の右手が雪を突き破って出てくるさまが何度も頭を過ぎる。 こんなに気掛かりな思いをするくらいなら、酩酊状態で風呂に入って熟睡、そのまま溺死パターンのほうが良かったか。 いやいや、とかぶりを振る。 男の死後、私はこの家に住み続けるのだ。 一度でも死体の浮かんだ風呂でリラックス、なんてできるはずもない。 体は充分には温まっていないが、風呂場から出て急ぎパジャマに着替える。 濡れた服は、バスタオルと一緒に洗濯機に放り込んだ。 床を拭くためのタオルを何枚か持って、男の確認に戻る。 今日一番の恐怖と緊張だった。 今日、と言わず369日、と言わず生きてきた中で、飛び抜けて、考えるまでもなく、紛れもない、ダントツNo. 1だった。
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