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その後、宣言通りに花を愛でながら、ソラシアは小声で「ありがとうございます」と告げた。
ミュゼルは、ちらりとその細面を見上げる。
目元が赤くて心配したが、幸い、心まで折られてはいないらしい。ゆっくりと微笑みながら、高所の花房も見やすいようミュゼルの目線まで枝を引いてくれる。
無邪気に花の香を楽しむ公爵家の幼子に、ソラシアは、はっきりと述べた。
「私、もう負けません。貴女のおかげです。我が家のこと。父母のこと……いままで、ちゃんと知らなくて。負い目ではなかったのですね」
「そうよー。みんな、できることをすれば良いの。他人の足を引っ張るのなんか、愚者のすることだわ」
ミュゼルは、ふう、と息をつく。「あのひとたちも、これでちょっとは“見る目”を養ってくれたらいいわよねぇ」と。
蜂蜜色の瞳にストロベリーブロンドの柔らかな巻毛。もちもちと白い肌。傍目には愛くるしいことこの上ない六歳の幼女が、およそ六歳らしからぬ達観を匂わせる。
ミュゼルはこのとき、すでに確固とした自我の基盤を形成していた。
――――つまり、無類の可愛いもの好き。目利きや駆け引きも好き。筋の通らぬものは大嫌い。
総じて、なぜか気風がいい。
その印象のまますくすくと育ち、やがて十六歳に。
ほんものの、駆け出しではあるが一人前の淑女となった。
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