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気取られていたのか。今さらかも知れないが、俺は慌てて目を逸らす。
「べ、別に……」
「もしかして、記憶がはっきりしてきた?」
嬉しそうに声を弾ませたリオに、お前こそ忘れてるんじゃねーよと言いたくなる。
「……もうとっくに全部思い出してる」
まだ幾重にも紗がかかっているような感じだから、まず頭の中でそれをかき分けなきゃならないが。
俺たちは近所に住む同い年の幼なじみで、中三の二月から付き合っている、ということだってちゃんと憶えている。
三日前、俺は鍛錬……じゃないな、体育の授業で〝バスケ〟の試合をしていて、敵と激しく接触して気を失った……らしい。
そして、前世の記憶がよみがえった。
事故の直後は、今世の記憶をすっかり駆逐してしまうほど鮮やかに。
「『君の名前は?』なんて訊かれて、ほんとショックだったんだからね」
保健室で目を覚ました俺は、駆けつけてきてくれたリオに向かって、自分はシュワンヌ王国の第三王子として生まれ、後に国王となったディークフリッドであると名乗り、彼女にも名前を訊ねて……泣かれた。
その後、病院で精密検査を受けたが、一過性の記憶障害とのことで他に異常は見つからなかった。
程なくこっちの世界のことも思い出せるようになったので、今日から学校に復帰したんだが、やはり前世の記憶の方が強めなせいか今ひとつ調子が出ず、リオに付き添われて早退してきた。
リオの唇が少し拗ねたような形になる。
「ここで二人きりになったら思い出してくれるかもって、期待してたのに……」
「――何を?」
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