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なぜか少し頬を染めたリオは、揶揄を含んだ口調で言った。
「シュンちゃんは、『シュワンヌ・テイルズ』の王子さまなんだよねえ?」
こんなふうに茶化されると、俺の中ではありありと浮かぶあの世界が、ここではすべて虚構なんだと改めて思い知らされて気分が滅入る。
リオが口にした『シュワンヌ・テイルズ』は、この世界で俺たちが生まれたころにそこそこ売れたというゲームの名前だ。
俺はそれで遊んだことはないが、一部の人たちの間では根強い人気があったそうで、続編もいくつか作られて、去年には復刻版も発売されたらしい。
「王子さまのディークフリッドは……」
リオの前で俺がその名を口走ってしまったとき、保健の教師が「それって『シュワンヌ・テイルズ』? 懐かしい!」と反応したことにより、俺たちはそのゲームの存在を知ることとなった。
精一杯生きたつもりの自分の人生が、架空のものとして扱われているのは衝撃だった。
「小さい頃に魔王の手下にさらわれかけたときに記憶をなくして、素性が判明するまでは冒険者として暮らしてた苦労人なんだよねー」
〝ネット〟で調べたらしいディークフリッド情報を呑気に語るリオに、俺の心は波立つ。
そうだ。子供のころは随分と苦労した。
何も思い出せない俺を拾ってくれた優しい木こりの夫婦も、村を襲ってきた魔物にあっけなくやられて、生きていくために冒険者をやるしかなかった。
でも、お前と出会って恋に落ちて、記憶を取り戻して魔王を倒し、お前と結婚して死ぬまで一緒にいて、愛に満ち溢れたいい人生だったんだぞ。
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