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オレはコーヒーが好きだ。
それもインスタントコーヒーが好きだ。理由は単純明快。
早い、安い、美味い。そして何より自分で味の濃さを調整できる。オレの好みは勿論ブラックだ。コーヒーの粉を入れ、普通より少し多めにお湯を入れれば、特製ガブリエルブレンドの完成ってわけさ。
これが無いと一日が始まらない。オレは淹れたてのコーヒーをデスクに置くと、ブラインドから朝の街を眺め、愛飲のブルーポールモールに火を点ける。もうこのタバコはジャパンでは売ってないらしい。まったく世知辛い世の中になったものだ。オレは哀愁と共に煙を吐き出す。
おっと紹介が遅れたな。オレの名前はガブリエル・アシェット。ここ紐育で探偵事務所を営んでいる。従業員は所長のオレ。そして、看板猫のレイチェル。以上だ。
事務所の静けさも相まってなんだか虚しくなってきた。レイチェルはソファのうえで優雅に欠伸をしている。ふん。気楽でかわいいやつめ。
そう。うちの事務所は儲かっていない。来る依頼といえば逃げた猫探しや、犬探し、浮気調査と言った安くてショボいものばかりだ。勿論全力で仕事はこなすが金にはならない。唯一の良いことと言えば顔がそれなりに売れていることくらいか。しかし金になる仕事は来ないのが現実だ。オレは近所の奴らに体のいい便利屋かなにかだと思われてるいるのではないか。なんだか急に不安になる。
このように金も依頼もないせいで、家賃も既に半年も滞納している。先月大家がモーニングスターを持って現れた時は流石にオレのビッグマグナムも縮み上がったってもんだ。
もっと大きな依頼は来ないものか。やることもないのでオレは妄想に耽る。
舞台は大きな洋館。そこで殺人事件が起きた、殺されたのは屋敷の主人。現場は密室。容疑者は屋敷内の人間全員。ふふ、このような一見不可能な事件でも名探偵ガブリエル・アシェットにかかればこんな事件謎でもなんでもない。
「犯人はあなたです!」
と、オレは大声で誰もいない空間に向け大声で人差し指を突き立てる。我に帰る。世界から音が無くなったように静かだった。ああ虚しい。
オレの急な大声に驚いたのか、レイチェルがもの凄いスピードで部屋中を駆け回り始める。彼女は極端にビビリだった。
レイチェルがデスク上を駆け抜けた瞬間、淹れたてのあっつあつのコーヒーがオレの股間にクリーンヒットする。オレはあまりの激痛に甲高い悲鳴を上げる。
「キャアアアァイ」
アイダホの生娘のような悲鳴を上げたオレはおよそオレ史上最速の速さでベルトを外し、スラックスと下着を下ろし、自らのスーパービッグマグナムの状態を確認する。
その際、オレは咥えていたタバコをスーパービッグマグナムの先に落としてしまう。ジュッと音が鳴った瞬間、オレは本日二度目の絶叫をかます。
「イヤァアアァァアィ」
オレの絶叫などなかったかのようにレイチェルはひとしきり暴れて落ち着いたのか、再びソファに戻り毛繕いを始めていた。
「この愛しいバカ猫! オレのスーパービッグマグナムが使い物にならなくなったらどうしてくれる」と、オレは自らの股間を息を吹きかけ、必死に熱に浮かされたスーパービッグマグナムを冷やしにかかる。
「スーパービッグマグナムって言うよりデリンジャーね」
唐突に女の声がする。下半身丸出しのオレが振り向くと、入り口には顔より大きなサングラスを掛けたブロンドの美女が立っていた。
「依頼ですかなお嬢さん?」
とりあえずオレはキメ顔でそう言い放つ。
「とりあえずスラックスを上げたら?」
女は醒めた口調で言った。
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