遅すぎる恋。始まり

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私は山崎君に手を引かれ、まだ新しい綺麗な建物の中へ入った。 そして二人で部屋に入り、彼はそっと鍵を閉める。 「あの時俺が思ってたのはね、」 山崎君は潤んだ瞳で私を見つめる。 その瞳に吸い込まれるように見つめ返すと、山崎君は私に近づき、正面からそっと抱きしめる。 「藤下のことが好きだったってことだよ」 それはあまりに突然の出来事で 信じられない言葉だった。 私は頭が追いつかず、言葉が出てこない。 なんで、今更… 私はもう山崎君と絶対結ばれないのに。 彼のものになれるはずがないのに… 「何言ってるの…だってもう私は…」 「結婚、してるんだよ」 私は震える声でそう言った。 彼の胸の中で、左手の薬指をぎゅっと握り締める。 「…そうだよね、ごめん、どうかしてた。」 我に返ったのか、山崎君はパッと私の体を離した。 私の左手を、切なそうに見つめている。 既婚者に手を出したらどうなるか、その罪深さを知っているからきっと怖いんだよね。山崎君も。 「さっきのは忘れて?あ、そろそろ戻ろうか。もう遅いし」 私に背中を向けて歩き出そうとする。 「待って。」 私は彼のシャツの袖をそっと掴んで呼び止めた。 「自分からやっておいて、こんなところまで連れてきて、一方的に思ってること言って… 山崎君は自分勝手だよ。私を弄んでるわけ?」 そんなの、無責任すぎる。 「私だって好きだったよ、山崎君のこと」 「入学式で一目惚れしてからずっと好きだった。隣の席になって色々話せたことも、私を励ましてくれたことも、全部嬉しかったよ」 「卒業式の日、告白しようと思ってたけど言えなかったの。それがずっと心残りで…」 私は今まで募らせてきた思いをぶつけるように言った。 あの頃、どんなに君の事が好きだったか。 その全てを吐き出した。 話している途中で、不意に涙が溢れてくる。 私はその顔を彼に見られないように下を向く。 「……何なんだよ、」 山崎君は、俯く私の顔を両手で包み込んだ。 その手で私の顔を上げ、無理矢理目を合わせる。 「お前は、どこまで俺を夢中にさせたいの?」 山崎君の優しい声が、一気に怖さを増す低さへと変わった。 そして再び、私のことを優しく抱き締める。 「ズルすぎ、藤下のくせに」 静かな空間に響く彼の声に、心臓がドキドキしている。 鼓動が彼に伝わってしまいそうなくらいに。 あの時、早く想いを伝えていれば とびきりの笑顔で抱き合うことができたかもしれない。 「山崎君の方がズルい」 私は両腕を彼の背中に回し、そっと抱き締め返した。 「私、だいぶ酔ってるのかも」 私は少し火照った顔で、潤んだ瞳で、彼を見つめる。 それに対し、山崎君も私の目を真っ直ぐ見つめ返す。 「そうだね、酔ってるのかもね。」 そして互いの顔が近づき、引き寄せられるようにキスをした。 互いに抱き締め合う体は離さず、キスだけが激しくなっていく。 部屋には、唇が重なる度に漏れるリップ音が響く。 大好きでたまらまかった人と想いが通じ合った時… それはもう、遅すぎる恋だった。 既婚者としてあるまじき行為だと言うことは十分理解している。 自分が今やっていることがどんなに悪いことか。それも分かっている。 でも私は。今は… どうにも止められないみたいで。 ベッドに押し倒され、彼はシャツを脱いで上裸になった。 程よく筋肉がついた逞しい腕。 その体を見ただけで感じてしまう。 「あーあ、まだ始まったばっかりなのに」 そして私の服の中に彼の手がスルスルと入ってくる。 「あっ……ダメ、山崎く…」 そう呟くと、彼は私の言葉を遮るようにまたキスをする。 「颯太って呼んでよ、」 「うっ…そ、うた……」 彼は怪しく笑った。 その笑顔に優しさはなかった。 温厚な彼が狼のように豹変したみたいに… 強引で、強く、激しく、私を抱いた。 行為に夢中になる中、私の左手の薬指に彼の手が触れた。 つけていた指輪がスルスル外されていくことに気づく。 カラン 側にあった机に、それが置かれる音がする。 「分かってるけど、今は俺だけ見て」 そう言って彼は私の手を優しく握った。 その言葉に安心し、私は彼に身体を預ける。 首のネックレスを外され、服を脱がされ、それでも私は、必死に彼についていく。 「あぁっ……」 互いの吐息、そして不意に漏れ出る声。 その全てが興奮材料となって、この行為を余計にヒートアップさせる。 体が密着して、気持ち良くて。 結婚してるのに別の異性と肉体関係を持つことを、世の中では不倫と呼ぶ。 そんなこと、私は絶対しないと確信していたはずなのに。 何故こんなにも、あの一瞬で溺れてしまったのか。 あの時は馬鹿だと朝笑っていた自分も 今じゃテレビの芸能人と全く同じ身分。 こんなに簡単にセックスしていいわけがないのに… 私は馬鹿でクズな大人の一種に簡単に呑まれていった。 私は触れてはいけない人に手を出してしまったようだ。 不純で、ずるくて、最悪で。 私達は、微妙にぬるくて、黒く染まった関係になっていく__       --episode1.完結-- ※このお話には続編があります。 episode2は出来上がり次第、すぐに公開致しますので楽しみにお待ち下さい^ ^
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