Eins:Dienst

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「でも、その未来を見たおかげで、こうして故郷を守りたい一心で協力者を募れるわけです。ゼーレさんも、校長先生を通じてお願いできそうです」 「ゼーレ・ヘルツか……アリス、そこらへんは大丈夫そうなのか?」  アリスはキョトンとした様子で首を傾げる。あまりにも肩透かし。聞いてみたのにその意味するところすら通じていないときてはエリアスも言葉が出ない。 「大丈夫って、兄さん、変なこと聞くのね。私の幼馴染のこと、信じられない?」 「いやあ、そんなこと……」  エリアスはここで、アリスの中の感情が並々ならざるものだと気付かされた。  幼い頃は、アリスが演奏して、その音楽でゼーレが踊るということをしていた。踊る様子はアリスには見えていなかったが、それでも楽しかった。  そして、「あの日」。アリスはゼーレと戦いながら、美しいその舞に少し感動していたところがある。魔法を音楽的に分析して打ち消すという面倒なやり方は、単なるアリスの戦法と一ついうだけでなく、敬意の表れでもあった。 「私、嬉しいの。今度は、私の魔法の音で、ゼーレが踊ってくれる。そして、ニルヴさんが、私の手を、取ってくれる」 「こんな状況だっていうのに、よくそんな芸術家思考が保てるよね」  ニルヴも若干呆れ気味になるくらい、アリスは純粋な心で夢を見ていた。その気持ちは決して悪いものではなく、むしろ動機として正しいものだろう。  ネガティブなことではなく、楽しみなことを考える。彼女の軸がぶれない姿に、二人は他の人を重ね合わせていた。
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