屋上で

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屋上で

どんよりとした薄暗い雪空の下、昼のお弁当も食べずに、中学校の屋上から白銀の世界を眺めていた。運動場も住宅街も雪で真っ白に覆われている。この辺りがここまで積もった事は僕が産まれて初めてだと思う。 僕は丁寧に靴を脱いで揃えると、屋上の端の1段高くなっている部分に右足を掛けた。この部分の事をパラペットというらしい。5センチ程度積もっている雪を両手で押さえた後、右足を上げて踏みつけ、手足に力を入れる。 僕、藤原智久は中学2年生。小さい頃から極度のあがり症の為、色々な場面で失敗ばかりしてきた。合唱コンクールのような、皆で歌う時は問題ないんだ。僕が緊張して歌詞を忘れたって、誰も気にせず進んでいくからね。問題は、沢山の人達の前で僕が1人で喋ったりする時。僕が黙ってしまうから皆が待っていなきゃならなくなる。そして、先生や誰かが助け船を出してくれて、ようやく次の人へ進む。これは、ちょっとした自己紹介のレベルでもダメなんだ。 中学生になったぐらいからかな? もっと重症になって、気を失って倒れてしまった事も2回程あったと思う。 そんな性格が災いしたんだと思うけど、中2になってからイジメを受け出したんだ。苦痛で学校に行きたくないって思った事は何度もあった。そんな時、救ってくれたのが友人の陽翔(はると)だったんだ。陽翔は優しくて頭も良い。イジメっていうのはイジメっ子の方が精神的な病気なんだって。自分が思い通りに生活出来ないストレスを弱い相手にぶつけるって教えてくれた。もちろん、イジメられる僕にも原因があるのは分かっているけど、陽翔の優しさで僕は救われた。 でも、嫌な噂を聞いたんだ。陽翔が裏では僕の文句を言っているって事を……。もう、誰も信じられなくなった僕は、今日、屋上から飛び降りる決意をしたんだ。この世界とお別れしたい。 パラペットの上に何とか立った。靴下の上から雪の冷たさが伝わってくる。下を覗き込むと吹き付ける雪の寒さで上半身がブルブルと、高所の恐怖で下半身がガクガクと震えだした。 怖い……やっぱり無理だ……。
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