友達

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友達

その時、真っ赤な光と共に熱風が背中から伝わったかと思うと、スライム達が一瞬で消えた。振り返ると、先端に青い宝石の付いた杖を持った、30歳前後に見える黒髪で細身の男性が立っていた。何と無く担任の先生に似ている。格好や攻撃方法を見る限り魔法使いなのだろうか? 普通に考えると敵ではない。彼は助けた僕に興味なんて無いといった様子で、特に乱れてもいない前髪を上目遣いでセットしている。 「ありがとうございます」 僕が礼を言ってお辞儀すると、「いえいえ」と右手を軽く上げて去ろうとした。 「あ、あの……」 僕が彼に質問しようとすると、彼は「名乗る程の者じゃありません」と言った後、何か呪文を唱えると、近くに見えている町へ勢いよく吸い込まれた。 別に名前を聞こうと思った訳じゃなかったし、町へ行くなら一緒に連れていってよ、とテンションが下がった。その時、小さなコインが6枚落ちている事に気付き拾い上げた。スライム3体の戦果という事だろうか。いや、そんな事をしている場合ではない。次、モンスターに襲われるとヤバい。僕が町の方を見たところ、町までは150メートルぐらいあり、町の近くに何故か少年が立っているのが見えた。取り敢えず、そこまでダッシュする。 少年は走ってくる僕を不思議そうに見ている。クリっとした瞳が特徴的で可愛い顔をした黒髪の背の低い少年。僕と同い年か少し下に見える。どことなく陽翔に似ていたので、一瞬気まずさを感じたけど、気にせず声を掛ける。。 「はぁ……はぁ……こんにちは」 「こんにちは、どうしたの?」 「さっきスライムに襲われて……。だから、取り敢えず町に入ろうと思って……。町の中は安全だよね?」 「うん、町は安全だよ」 「良かった。じゃあ、一緒に行こうよ」 僕は彼と友達になれると思った。陽翔に似ているせいか、第一印象が嫌なタイプじゃないし、この世界で友達が欲しい。 「僕……町に入っちゃいけないんだ……」 彼は悲しそうな顔で答えた。 「え? 何で?」 「……」 彼はうつむいて何も言わなくなった。 「何か理由があるんだね。言いたくなかったら言わなくても良いよ」 「……」 「僕は藤原智久って言うんだ。友達になってくれないかな?」 彼は顔を上げて少し驚いた後、目をキラキラさせて言った。 「うん! 僕はオーマ! 宜しくね!」 「宜しく!」 僕は両手を出して握手しようとアピールした。すると、オーマはハッと何かに気付いた後、申し訳無さそうな顔をして右手を背中に隠し、左手だけを出した。僕は気にしない素振りをして、両手で彼の左手を強く握ると彼もギュッと握り返してきた。 「オーマはここで何してるの?」 「え~っと……モンスターが町に入らないように躾してるんだ。一応結界は張ってあるけどね」 「えっ? オーマって獣使いか何か?」 「え~っと……そんな感じかな……」 「凄いね。じゃあ、オーマと一緒にいればモンスターに襲われても平気だね」 「うん。でも、争いは嫌い……」 「僕もだよ。えっと……僕、この世界初めてだから、ちょっと案内してくれないかな?」 「良いよ! じゃあ、取り敢えず町へ行ってみなよ」 「……でも……」 「僕、ここで待ってるからさ」 「……分かった。じゃあ、1時間後にまた来るね」 僕はオーマに手を振って町へ向かった。 オーマが何か隠しているのは雰囲気で伝わった。間違いなく嘘を幾つかついてるけど、悪い奴じゃないって事は何と無く分かる。オーマが咄嗟に隠した右手……。チラッと見えちゃったけど、多分、人間のモノでは無かった。という事は、何割か獣の血が混じっているんじゃないかな? 獣を躾してるって言っていたし、町に入ったらダメだとも言っていたしね。
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