順番待ち

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順番待ち

僕が師匠に付いていくと、バス停のような場所に着いた。結構強そうな人達が3人居る。 「その後ろに並ぶのじゃ。ここはパーティーに金魚のフンとして付いていくだけの者の待機所じゃ。楽してレベルを上げられる。まあ、ワシは好まんがの」 「ありがとうございます」 「じゃあの」 師匠は肩を落として去っていった。変に期待させてしまって、少し気の毒な事をした感じだけど僕にはどうする事も出来ない。師匠の事は取り敢えず置いといて、金魚のフンの順番待ちをする事にした。恐らく、強いパーティーに付いていって、何もせずに経験値だけ貰うって話なのだろう。 暫く待っていると、見るからに強そうなパーティーがこっちへ来た。格好で判断するに、戦士、武道家、魔法使い、僧侶のようにみえる。 「宜しくお願いします」 順番待ちをしていた先頭の人が頭を下げ、パーティーに付いていくようだ。彼も中々強そうなのに、あのパーティーは、もっと強いという事だろう。 その時、大声で会話をしながら3人の男性が近付いてきた。彼らも中々強そうだが順番待ちをするんだろうか。 えっ? 3人組は僕の存在を無視するように、僕の前に割り込んできた。 「すみません、僕、並んでるんですけど……」 「ああ、そう。じゃあ、俺らの後な」 「は、はい……」 3人組の1人が僕の肩に腕を回し威圧してきたので、僕は蚊の鳴くような声で返事するだけしか出来なかった。 多分、僕の見た目でイジメられっ子だと分かってしまうのだろう。こんな経験が何度もあった事を思い出し、黙ってその場を離れた。 結局僕は僕だ。弱虫で根性無し……。イジメられたから現実逃避したいと願って、異世界に転移出来たのに、結局この世界でもスライムに甚振(いたぶ)られ、師匠に竹刀で叩かれ、強そうな人に割り込まれる……。 僕は駆け出した。無性にオーマと会いたくなったからだ。オーマは優しくて強い……筈……。弱かったら町の外でウロウロ出来ないもんね。 オレンジ色の結界を通り抜けた先にオーマが見えた。 「オーマ!」 「智君!」 オーマは左手を笑顔で振ってくれている。智君って呼び方が陽翔を思い出させたけど直ぐにかき消した。 「町はどうだった?」 「う~ん……」 僕はオーマに町で起こった出来事を話した。 「そうなんだ……。もう、強くならなくったって良いじゃないか。僕と一緒にいればモンスターに襲われないし」 「ありがとう。でも、折角異世界に転移出来たのに無双しないって……」 「別に皆と同じじゃなくても良いんじゃない? 異世界でスローライフとかって話もあったと思うし……。農業とかしてみたらどう?」 「あ~、それ良いかもね」 確かにオーマの言う通りだ。僕には戦う才能は無いんだから、別の仕事を見付ければ良い。刀鍛冶とかも魅力的だな。 その時、オーマの表情が変わった。今までの優しい顔から一変して険しい顔になっている。僕は恐る恐る質問する。 「どうかした?」 「……ごめん……僕、行かないといけない……」 「どこへ?」 「仲間を守らなくちゃ……。智君ごめんね」 オーマは何か呪文を唱えると、物凄い勢いで飛んでいった。 どうしたんだろうか。仲間を守る? 友達がモンスターに襲われたから、何らかの連絡が入ったんだろうか?
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