魔王

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魔王

僕は町に戻り、町の中を散策する事にした。装備を整えたいけどスライムを倒したコイン6枚程度では何も買えないだろう。それでも、お金が手に入った時の為に見ておく価値はある。僕は武器屋に立ち寄る事にした。 ざっと品物を見る限り、1番安い竹竿でも10ゴールドとなっている。このコインが1枚何ゴールドかは分からないけど、多分、1ゴールドなんだろう。まあ別に買おうと思って来た訳ではない。 すると、店の店主が急に慌てて店じまいを始めだした。 「どうしたんですか?」 「今な、最強と言われているパーティーが魔王と戦っているらしいんだよ。とにかく、店を閉めるから出ていってくれ。今回は魔王を倒してしまうかも知れないからお前さんも見といた方が良いぞ」 最強パーティー対魔王……。是非とも見たい。もし魔王が倒されたら僕にどんな影響があるんだろう。 僕が武器屋の店主に付いて町の中央へ行くと、既に町中の人達が集まってごった返していた。歓声の上がる人集(ひとだか)りの後ろから、皆の見ている方を見ると、大画面のスクリーンに魔王と最強パーティーの戦闘が映し出されていた。戦闘を実況する音声も流れている。どうやら実況系YouTuberが配信しているようだ。異世界は僕が思っていたよりネット環境が進んでいるようだ。 戦闘を見る限りでは、どちらが優勢か全く分からない。ヒーラーがガンガン回復しているので()されているようにも見えるけど、ボス戦なので当たり前だろう。僕が1番驚いたのは、魔王が随分小さいという事だ。人間の5倍ぐらいあるのかと思っていたけど、僕と同じぐらいの身長しかない。何か魔王の見た目に違和感を覚えながら戦闘を見守る。 「行け~!」「勝てるぞ~!」 10分程、観客達のヒートアップが続いた後、一際大きな歓声が木霊(こだま)した。遂に魔王が力尽きて倒れたのだ。皆は抱き合って喜ぶ。 魔王を倒したからといって、どんなメリットがあるのか僕には分からなかったので、皆との温度差を感じながら倒れた魔王を観察していると、違和感の要因に気が付いた。魔王の手はオーマが咄嗟に隠した右手にそっくりだという事に……。 オーマは魔王だったんだ……。僕は、また騙されていたんだ……。 現世で陽翔(はると)に騙されていた事がオーバーラップし、涙が出そうになった時、周りの皆の歓声が悲鳴に変わった。皆は蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ惑う。モンスター達が町に入ってきたのだ。どっちへ逃げたら良いのか分からないまま僕も逃げ出した。 結界の効力が無くなったのか? 何で? もしかして……。 僕は、ようやく自分の愚かさに気が付いた。オーマが死んで結界が無くなってしまったんだ。魔王だから悪者だという先入観から、オーマが僕を騙して何か悪い事を企んでいると思ってしまっていた。だけど違う。オーマは人間とモンスターが何とか共存出来るように考えてくれていたのだと理解した。 「ギャー!」「うわ~!」 モンスターに襲われる皆の悲鳴が聞こえる中、オーマへの勘違いは陽翔にも当て嵌まるのじゃないのかと考えながら逃げていたけど、遂に僕の前にも羽の生えた化け物が現れ、死を覚悟しギュッと目をつぶった。
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