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現世
「智久~!」
「えっ?」
僕は想定外の状況を目の当たりにして困惑した。目の前には僕がベッドに横たわっていて、母さんが泣き崩れている。父さんと姉さん、そして、陽翔……看護師と……お医者さん? ここは病院?
僕は初めて自分を俯瞰で見た。そして、空中に浮いている自分が透けていて足が無い事に気が付いた。
「僕は……死んだのか?」
そう思った瞬間、僕は寝ている僕の本当の身体に吸い込まれた。
「智久! 良かった~!」
先程、天井から見下ろしていた皆を見上げている。
「僕……生きてるの?」
「そうよ! 陽翔君が屋上で倒れているのを発見してくれたのよ!」
「陽翔が?」
陽翔はゆっくりと僕に近付いて言う。
「智君、何やってんだよ。馬鹿な事しようとするなよ。困った事があれば相談してくれよな」
陽翔の目を見て改めて思った。陽翔は俺の事を考えて叱ってくれている。他の奴の変な噂を信じた僕を許して欲しい。
「ご、ごめん……」
「いや、俺も言い過ぎた……。とにかく、当分はゆっくり休みな」
その後、僕は皆から色々と慰めの言葉を掛けられた。自殺しようとした人間に強く叱るのを遠慮しての事だろう。皆が部屋を出てから僕は1人で考える。
臨床体験をしたって話を聞く事は何度かあったけど、異世界に転移したなんて話は聞いた事がない。一体何だったんだろう。多分、僕の脳の一部が、この世界を逃げ出したって、僕が変わらないとイジメからは逃れられ無いって事を伝えたかったんじゃないかな。あとは、陽翔に裏切られたって勘違いしている僕に真実を気付かせたかったんだろう。
病院の窓から外を見ると、屋上で見たのと同じ白銀の世界が広がっていたけど、空はスッカリ晴れ上がり、西日がキラキラと雪を照らしていた。
了
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