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改札を出た二人に、月冴ゆる寒風が襲う。
「あなたはどこから来たの? 帰れる?」悠月は心配した。
「帰れません」
「家はどこ?」
「うーん、実家は茨城のつくばですが、最近帰ってないな」
「ここは神奈川よ、どうしてこんなとこに?」悠月は驚いた。
「隣の駅の原田で、ライブに出て・・・そうだ、打ち上げして飲みすぎて」
「で、なんで隣の駅で降りたの?」
「トイレに行きたくなって、そのあと待合室に居たら、なんか暖かくて寝ちゃいました」
「タクシー代ある?」
「ないっす」
「カードとかも?」
「ないっす」
「じゃあ、あの居酒屋さん、朝までやってるからそこへ行きなさいよ」
「嫌です」
「なんで?」
「悠月さんの悩みを聞いて笑顔にするまでは、帰れないよ」
「ふう・・・」
悠月は、考え込んだ。『悩みを聞いてくれる』。いままでこんな友人が居ただろうか? 居てもそれは遠い昔の学生時代だったような気がする。こんな若いイケメンを放って帰るわけにはいかない、と自分に言い訳を作りながら、折衷案を出した。
「仕方ないなあ、明日、休み? なら居酒屋に行く?」
「はい、今日はたしか土曜日ですよね、悠月さんも休み?」
「・・・休み」
「やったあ、居酒屋で飲みましょう! 悠月さん!」
「あんた、まだ飲むつもり?」
「居眠りしたら酔いも醒めました」
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