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1-2
決して短くない付き合いの彼氏に、電話一本で最後通告を受ける形になった。
「彼女が妊娠って、じゃあ私は彼女じゃなかったのかよ」
こっちだって、縋り付いてまで付き合っていたい訳じゃない。別れることに文句はないが、7年も付き合った仲なのに、そのやり方が気に入らなかった。
「せめて最後くらい普通に顔見て、別れようって言えっつの」
大学生の頃、同じ講義を受けたことが切っ掛けで出会い、彼からの告白を受け入れる形で交際がスタートした。
去年の春からは向こうの転勤で遠距離恋愛も経験したけれど、社会人になってもお互いを励まし合うように上手くやってきたはずだ。
今までに二人の間で大きな喧嘩はなかったし、だからといって単調な付き合いではなかったかと云えばそうでもない。詠琉は過去を振り返って頭を抱える。
「やっぱり遠距離からおかしくなったか」
それにしても電話の解約までされるとは思ってもみなかった。泣いて縋って付き纏うとでも思われているのだろうか。
気付けば28歳。一人の男性と7年も付き合ったのだ。
イチャイチャするほどべったりでもなく、かと言って喧嘩をするほど意見が食い違ったこともなかった。
だから相手にとっては、そのぬるま湯が心地好くて都合が良いだけで、おそらく自分とは結婚する気がないことぐらいは分かってるつもりだった。
「しかし電話一本って。出前のキャンセルかよ」
手首につけていたヘアゴムで髪の毛を適当にまとめると、テーブル周りに散らかっていたゴミの入ったポリ袋を持って家を出る。
「あ、300万。アイツ……踏み倒してる金返せよ」
ひんやりした朝の空気が、二日酔いの頭をだいぶ楽にしてくれる。
マンションから出て路地を挟んだ向かいにあるゴミの回収ボックスに、先ほどまとめたゴミ袋を放り投げると、詠琉は大きく伸びをして踵を返す。
次の瞬間ドンッと大きな音がして、体が浮くような奇妙な感覚の後、叩きつけられたような激しい痛みが走って、詠琉は意識を失った。
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