18-4

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 詠琉には特出して魅力がある訳ではない。典慈の言葉を借りるなら、ちょっとばかり胸が豊満で肌がきめ細かい程度。確かに目鼻立ちはそこそこしっかりしてるが並プラス程度だと思うし、性格も良いとは言い難い。 「本当、なんなんだろう」  烏の行水よろしくサッとバスタブから立ち上がると、バスルームを出て勝手にバスタオルを借りて体を拭く。  どうやらドライヤーなどは置いてないらしい。仕方がないのでタオルを巻いて雫を切ると、着替えを済ませてベットルームに移動する。 「ねえ、典……」  典慈に声を掛けようとして、下からなにか話し声が聞こえるので、咄嗟に声を呑み込む。どうやら典慈は電話中のようだ。 「……だよ。ああ、上手いことやってる」  仕事の話だろうか。聞き耳を立てるつもりはないが、どうやら典慈は詠琉がまだ風呂に入ってると思っているらしく、結構なボリュームで話をしている。 「警戒心が強くて時間は掛かったけど。もっと早く協力してあげれば良かったね」  詠琉はタオルを外して髪を丁寧に拭き取るようにタオルドライで乾かしていく。その間も、典慈は彼女が風呂から出ていることに気付く様子もなく電話をしている。 「……して良かったのか?いや、とんでもない、めちゃくちゃ俺のタイプだよ、はは」  楽しげな声が響いてくる。会話の感じから、仕事ではなく友人か誰か近しい人との会話のようだ。あまり聞き耳を立ててもいけないと、詠琉はバスルームの方へ引き返そうとする。 「いや、お前がそれだけ別れたいって言うからどんな女性かと思ってたけど、随分と上玉じゃないか」  ふと不穏な言葉が聞こえて詠琉は足を止める。 「一晩たっぷり可愛がってあげたから、懐くのも時間の問題だろうね。なに言ってんだよ、お前の方がクズだろ、俊博」  会話の流れと最後の名前を聞いて、詠琉はザッと全身の血の気が引くのを感じた。  間違いだろうか。いや、こんな偶然もなかなかないだろう。  典慈は詠琉の元カレの俊博と知り合いなのだ。そして詠琉の考えが間違っていなければ、典慈はその俊博に何か言い含められて詠琉に近付いたと云うことになる。 「……え、なに」  一瞬で頭が真っ白になる。  足音を殺してバスルームに戻ると、ドッドッと心拍が上がって嫌な眩暈がする。一体どこからが作られた展開なのだろうか。  鏡に映る詠琉の顔からは血の気が引き、すっかり青ざめていた。
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