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19-2
しかし典慈はそれに協力してなんの得があるのだろうか。彼は根っからの女好きで、手を貸した程度のことだろうか。分からない。
「……詠琉」
大和が名前を呼ぶが、別のことに意識を取られているので詠琉はそれに気が付かない。
「詠琉、心配だから出発は明日に変更するよ」
「え?」
枕元に腰掛けて詠琉の髪を手で梳くと、病院に行かなくて大丈夫かと典慈が顔を覗き込んでくる。
「いや病院とか大袈裟だって、ただの疲れだよ。て言うか仕事、そんな簡単に……」
「良いんだよ。前泊みたいなもんで、時差ボケ抜くための日程だから。それより詠琉の方が大事」
「大事って。別に恋人でもないんだし、そんなに気を遣われても迷惑なんだけど」
「どうしたの。そんな言い方しなくてもいいじゃないか」
困惑した様子でどうしたんだよと典慈は首を傾げている。
「つか家すぐそこだし、ちょっと休んだらすぐ帰るから。16時には一緒に出るよ」
「詠琉、自分の顔見たの?相当顔色悪いよ」
心配そうに頬を撫でる手は温かいのに、なぜかゾッとして悪寒が走る。
こうして向けられる好意には裏側があるのだ。そう思うと恐怖に近い不安が一気に心の中に広がっていく。
夜通しセックスしたおかげで体は本当に怠い。その上先程の会話を聞いてしまって頭までが酷く痛んだ。
「ねえ詠琉。俺のことなら気にしなくていいから、顔色が良くなるまでとにかくゆっくり休んで」
「だからそういう彼氏ヅラやめてってば」
「彼氏どうこうじゃない。こんな状態で放っとけないから言ってるんだよ」
「…………」
「分かった。予定は変更しない。俺は支度してくるから、君は大人しく寝てろ。いいな」
「…………」
「はあ、なにが気に入らないのか知らないけど、とにかく家には送って行くから寝ときなさい」
そう言って詠琉の頭を撫でると、典慈は2階に上がっていった。
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