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19-3
「気に入らない?全部だよ……」
詠琉は小さく呟くと身を縮こませて毛布にくるまった。
頭の中を空っぽにしたくても、次から次へとぐるぐると考えが溢れてくる。そこでふと思い出したようにスマホを手に取ると、以前見つけた俊博のアカウントらしきSNSを開いてみる。
画面をスクロールすると、顔にはスタンプなどの加工で配慮がされているが、女性と仲良さげに並んだ写真や、手作りのご飯を楽しんでるなどの投稿が並ぶ。
また別の日には、彼女がヤキモチを妬くから携帯の番号を変えたと書き込まれている。トップに戻ると、つい先ほどだろう、クソ女ざまぁと嘲笑するような書き込みが新たに加えられていた。
多分、これはほぼ俊博本人のアカウントで間違いないだろう。
けれど身に覚えのない不可解な投稿も多くあった。貸した金を返さないクソ女、ストーカー並に毎日連絡してくる彼女ヅラしたキモい女など、詠琉のことなのか別にそう云う相手が居たのかが分からない。
どちらかと言えば、借金を踏み倒してるのは俊博の方だし、用事もないのにくだらないメッセージを送って来られて、意味が分からずスルーしていたのは詠琉の方だ。
それに告白されて、お前が一番いいと、好きだと言われて6年も付き合ったが、誰かに紹介される場面もなかったし、彼女ヅラをした覚えもない。
(そこまで反感持たれてたのかい……)
なにを切っ掛けにここまで嫌われたのか分からないが、一方的な別れ話で切り捨てた挙げ句に、男をあてがうマネまでして、俊博がなにを考えているのか分からなかった。
金属が何かに当たる音がして、詠琉はアプリを閉じて埋もれた毛布から顔を出す。
「詠琉、俺もう出るけど、合鍵を渡しておくから。気が向いたら掃除とかアレの水やりで様子見に来て」
「え、なに。もうそんな時間?」
「いや、急遽顔を出さなきゃいけない案件が出来たんだ。顧客がちょっとね」
リビングを離れて冷蔵庫から炭酸水のボトルを取り出すと、グラスに注いで詠琉にも飲むかと声を掛けるので、要らないと短く返す。
「典慈の仕事でも、そんなのあるんだ」
「え?ああ、まあね。懇意にしてる真珠の卸商の担当がこっちに来ていて、邪険に出来ないんだよ」
「ふぅん。ねえ、合鍵とか要らないんだけど。重いよ」
「お前ねぇ……俺は一晩で終わるつもりはないって言ってるだろ」
典慈は詠琉の枕元に座ると、ギュッと鼻を摘んでなに拗ねてんだよと炭酸水を飲む。
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