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皐月には曖昧な風が吹く
皐月には曖昧な風が吹く。
春から夏へと移ろいゆく季節の間に吹く風はどこかおぼつかなく揺れているようだ。まだ爽やかさを手放さないその風が五月晴れの空の下を散歩している。その道草ついでのように私たちの部屋のカーテンを揺らした。
「菜々、これお土産」
「そんなのわざわざいいのに、何?食べ物?」
「みんなで食えるかと思ってなんか美味いらしい店の生ハム」
「え、それは嬉しい!ありがとう!」
私たちの従兄弟にあたる相楽源が白い紙袋を手渡してくれるのに喜んだ。
この家を訪れるのは理一とは私の他には彼だけだ。
世間がゴールデンウィーク休暇に突入して今日で三日目。月曜日の今日は本来ならば平日だけど、私と理一はともに有休を取得しているので、昭和の日だった先週の金曜日から幸福な十連休の真っ只中にいる。
「何、源がなんか買って来てくれたの?」
「生ハムだって。理一、お酒飲む?」
「源が飲むなら付き合うけど、お前なんか飲むの」
「当ッたり前だろゴールデンウィークだぞ!どんな天変地異が起きても飲むわ!」
「相変わらず大袈裟だな、あとうるさい」
「お前は相変わらず冷たいな!」
源が不機嫌そうに顔を顰める。その横で理一は涼しい顔だ。昔から変わらないふたりの攻防が可笑しくて、私はふたりの間で笑った。
半分近く似たような遺伝子を持っているからなのか、理一と源は双方背の高い。そして三人並ぶときは必ず私は真ん中に挟まれる格好となるので、まるで捕らわれの宇宙人みたいだった。私もそれほど背が低いわけではないので少し不本意だ。
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