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「ねえ源、何飲む?」
「俺はとりあえずビールで、理一も」
「なんでお前が決めるんだよ」
「は?お前が俺に付き合うって言ったろ?てか他に飲みたいもんあんのかよ」
「ビールだと菜々が飲めないだろ」
「…お前どんだけ菜々中心に世界回してんの」
「は?別に普通だろ?」
なあ?と視線を送ってくる理一に苦笑した。私と理一は何でもかんでも分け合う習慣が抜けないので、こういう場面で半分こに出来ないものは日常的に選ばない。けれどこれは私たち以外の人から見ると随分窮屈な習慣に思えるらしい。
「私は源の買って来てくれたチューハイにするから理一はビールに付き合ってあげなよ」
「まあいいけど、なんで俺がお前に付き合わなきゃなんないの」
「大事な大事なたったひとりの従兄弟だからだよ!」
「別に好きで従兄弟に生まれたわけじゃないけどな」
「なんでそんなこと言うんだよ!」
源はどんな時でも元気だった。
そんな彼は今、ある私立高校で教師をしている。
昔から優等生を貫いていた理一と違い、源はどちらかと言えば問題児で、不良だなんて不本意な呼ばれ方をすることもあった。
そんな源が教師になると言い出した時は驚いたけれど、考えてみれば源は昔から人の懐に入るのが上手で、面倒見もいい。それに何より優しい人だった。教師としての資質は十二分に備わっている。
「菜々にもちゃんとチューハイ買って来たろ、なあ?」
「ありがとう、桃味好きだから嬉しい」
「だと思ったよ」
「嘘つけ、直前に俺に連絡してきたの誰だよ」
「お前さあ、俺の顔立ててやろうとかってゆう優しさはないわけ?」
「あるわけないだろ」
私が理一のことを知っているのと同じだけ、理一も私のことを知っている。
些細な癖も、食べ物の好き嫌いも、機嫌の治し方も。
それは私と理一がともに育んできた歳月の分だけ積み重なって、私たち行く手を阻んでいる。
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